2026年9月17日、東京オリンピックのスケートボード日本代表だった青木勇貴斗(あおき・ゆきと)が、麻薬取締法違反の疑いで書類送検されたと報じられました。

先月の8月6日、東京・江東区のJR新木場駅の構内でパトロール中の警察官に職務質問を受け、そこで微量の乾燥大麻が見つかったとされています。

本人は「大麻を所持していたことは間違いありません」と容疑を認めているそうです。

ただ、青木勇貴斗は小学6年生でプロの資格を取り、東京オリンピックの日本代表にまでなった選手でもあるんですよね。

「たった一度の職質」をきっかけに、彼がどれほど重い代償を払うことになるのか。

そして、なぜスケートボード界隈ばかりで、同じような薬物トラブルが繰り返されるのか。


青木勇貴斗のプロフィールと経歴

  • 氏名=青木勇貴斗(あおき・ゆきと)
  • 生年月日=2003年9月4日(23歳)
  • 出身=静岡県静岡市清水区
  • 身長・体重=176cm・60kg
  • 種目=スケートボード男子ストリート
  • スタンス=レギュラー
  • 所属=ボードライダーズジャパン(DCシューズやエレメントを日本で扱う会社)
  • 出身校=キラリ高等学校(静岡県榛原郡吉田町の通信制高校)
  • 認定=日本オリンピック委員会のネクストシンボルアスリート

スケートボードに出会ったのは5歳のころで、きっかけは父親の影響だったと本人が語っています。

放課後に通い詰めていたのは地元の清水港のそばにあるスケート広場で、年上のスケーターに混ざって暗くなるまで板に乗り続けていた少年でした。

東京オリンピックの前には、堀米雄斗や白井空良と並んで、「期待の星」としてファンから熱い視線を浴びていました。

  • 2009年ごろ 父親の影響で5歳からスケートボードを始める
  • 2015年 小学6年で日本スケートボード協会のプロ資格を取得
  • 2019年 全日本選手権 男子ストリート優勝/世界選手権 男子ストリート6位
  • 2021年 タンパ・アマ優勝/世界ランキング18位
  • 2021年7月 東京オリンピック 男子ストリート17位
  • 2024年5月 オリンピック予選シリーズ上海 予選7位
  • 2025年 ワールドスケートボードストリート北九州 準決勝進出
  • 2026年9月 大麻所持の疑いで書類送検

小学6年でプロになり東京五輪まで行った

日本スケートボード協会のプロ資格は大会での成績を積み上げた人だけが取れるもので、大人でも取れずに終わる人がたくさんいるのですが、青木勇貴斗はそれをランドセルを背負う年齢であっさり手に入れました。

アメリカのフロリダで毎年開かれる「タンパ・アマ」は世界中の若手が集まる登竜門で、「ここを勝てば世界王者への道が開く」とされる大舞台なんです。

そこで2021年に頂点へ立った青木勇貴斗の優勝は、関係者の度肝を抜く快挙でした。

得意技は、板を空中で回転させるフリップ系のトリック。

街中の段差や手すりを攻める種目で、ミリ単位のブレもない足さばきを最大の武器にしていた選手です。

東京オリンピックでは予選を通ることができず、17位で大会を終えました。

ただ、あの舞台に出られる枠は世界で20しかなく、ひとつの国から出られるのは最大3人までで、日本中が注目したあの狭き門を、堀米雄斗や白井空良と争って自力で勝ち取ったわけです。

パリ大会へ向けた予選でも、日本勢5人のうちの1人として準決勝へ進んでいます。

結果としてパリの代表は堀米雄斗・白井空良・小野寺吟雲の3人になり、青木勇貴斗の名前はそこにありませんでした。

それでも翌年の北九州大会でまた準決勝まで進んでいて、いまも国内では上位の選手です。


書類送検は「軽い処分」ではない

「逮捕」ではなく「書類送検」と聞くと、なんとなく軽く済んだように感じますよね。

けれど、この2つを分けているのは身柄を押さえるかどうかという手続きの違いだけで、どちらも事件として検察に送ったという点では同じなのです。

起訴するかどうかを決めるのは、そのあとの検察になります。

書いているのは元警視庁捜査第一課の方で、逮捕しないほうが立件としては堅い、という見方も出ています。

罰則は2024年12月に重くなった

大麻の事件なのに、容疑が「麻薬取締法違反」と報じられているのを不思議に思った方もいるかもしれません。

理由は、法律が変わったから。

2024年12月12日に改正法が施行されて、大麻は「麻薬」として位置づけられ、所持や譲渡は麻薬及び向精神薬取締法(報道でいう麻薬取締法)で取り締まられることになりました。

  • 単純所持の罰則が5年以下から7年以下の拘禁刑へ引き上げ
  • これまで罪に問えなかった「使用」が新たに処罰の対象に(7年以下の拘禁刑)
  • 医療用の大麻由来医薬品は、条件つきで使えるように

つまり国はこの2年で、大麻の扱いをむしろ厳しくしていたのです。

投稿にある「懲役」は、2025年6月から「拘禁刑」という呼び方に変わりました。

そして「微量だったのなら軽いのでは」と思ってしまいますが、量の多い少ないは所持罪の成立には関係がありません。


契約と2028年ロス五輪までの時間

スケートボードの選手の生活を支えているのは大会の賞金よりも、シューズやデッキやアパレルのスポンサー契約と、そこから生まれる映像作品や広告の仕事なんです。

だから刑事事件になれば、スポンサーはまず契約を続けるかどうかを考えはじめます。

  • スポンサー契約とチームの席
  • 日本オリンピック委員会のネクストシンボルアスリートの認定
  • 競技団体からの処分による大会出場の資格
  • 2028年ロサンゼルス大会へ向けたポイント争いの時間

ロサンゼルス大会でもスケートボードは実施されるので世界中の選手がもうポイントを積み上げはじめていて、その争いから外れている時間が、そのまま次の代表の座から遠ざかる時間になります。

5歳から18年かけて滑ってきたものが、駅の構内での職務質問ひとつと引き換えになってしまうんですよね。

「スケボーがいくら凄くてもこれでは」。

2025年に別のプロスケートボーダーへ向けられた言葉ですが、こう書かれた時点で、技の話を聞いてくれる人はもういなくなるのです。

青木勇貴斗の所属先や競技団体からの発表は、9月17日の時点でまだありません。

スケボー界で摘発が多いと言われる背景

「またか」と感じたのなら、たぶん次の3件のどれかを覚えています。

スケートボードで2人、同じ板の文化をもつスノーボードで1人。

  • 2023年 プロスケートボーダーの池田大亮が大麻所持の疑いで逮捕
  • 2023年11月 プロスケートボーダーの吉岡賢人が大麻所持の疑いで逮捕。神奈川・葉山町の海岸で近隣住民が通報し、職務質問で発覚
  • 2019年 スノーボードの国母和宏が大麻の密輸などで逮捕。2020年1月に懲役3年・執行猶予4年の判決

「海外遠征で色んな国でスケートしてるから」。

吉岡賢人をかばう側から出た言葉ですが、ここにこの競技の事情が出ているのだと思います。

プロのスケーターは10代のうちから海外の大会をまわって、現地のスケーターの家に泊まり、その輪の中で技を覚えていく世界で、その行き先には大麻がすでに合法になっている州や国がいくつもあります。

 

国母和宏は初公判で、大麻を始めたのは「14歳頃から。北米で」と答え、そのうえで「日本で違法なのはわかっていた」とも話しています。

知らなかったのではなく、知ったうえで感覚のほうがずれていく。

10代で海を渡る競技には、そういう失敗の入口があるのだと思います。

そもそもスケートボードは競技である前にストリートカルチャーとして広がったもので、ストリートの音楽やダボダボの服、壁の落書きといったカルチャーとずっと隣り合わせでした。

「ちょっと悪くて格好いい」という空気を煽って商売にしてきたのは、実は大人たちです。

ナイキという世界的なメーカーで、大麻の品種をモチーフにしたスニーカーの話が出る。

アメリカでは州ごとに娯楽としての大麻が合法になっているので、こういう商品も普通に売り場へ並びます。

「本場の空気に染まりたい」と渡米した十代が、その緩いノリに影響されないはずがありません。

ちなみに今回の現場になった新木場駅は、歩いて5分のところに江東区のスケートパークがあり、板に乗る人が全国から集まってくる場所です。

「迷惑だからあっちへ行け」と追い払うのではなく、専用の遊び場を作る流れがやっと定着したところでした。

「またスケボーか」と言われるたびに、肩身が狭くなるのはそのパークで滑っている子どもたちです。

子どもたちに夢を売ってきた大人たちこそが、「日本では絶対にダメだ」と教える責任があるはずなんですよね。