翌朝の紙面に載るはずだったスポニチ(スポーツニッポン新聞)の記事に、霜降り明星(お笑いコンビ)の粗品が「取り下げなさい」と迫ったのは、2026年10月20日の夜のことでした。

期限の22時を過ぎても返事はなく、粗品は生配信で、自分がMCを務めるフジテレビの大晦日の特番『ツッコミスター』を、先に自分の口で発表してしまいます。

怒っていたはずの配信が、そのまま大晦日の番組の宣伝になっていたのですから、その手際に感心する声が一気に広がりました。

しかも配信の中で粗品は、「本人以外に言った時点で、もう絶対漏れる」と、芸能界の秘密がどう外へ出ていくのかまで口にしています。

番組も劇場も自分で作る粗品の経歴

粗品
引用元:粗品 Official Channel「スポニチ待ち(切り抜き禁止)」
  • 大阪市福島区の出身で、1993年1月7日生まれの33歳(吉本興業所属)
  • 2018年に霜降り明星で「M-1グランプリ」優勝、2019年に1人で「R-1ぐらんぷり」優勝=漫才とピン芸の両方の大会を初めて制した芸人
  • YouTubeの「粗品 Official Channel」の登録者は約243万人(2026年10月21日時点)
  • その週のニュースを1人でいじるYouTubeの「1人賛否」を、2026年4月まで毎週配信
  • 競馬の予想では「生涯収支マイナス5億円君」を名乗り、負けた額まで笑いにしている
  • 2026年5月、自分がプロデュースする劇場の公演ブランド「よしもと粗品劇場」を立ち上げ
  • 2026年5月、自分のYouTubeの企画「ツッコミマン」をもとにしたフジテレビの特番「ツッコミスター」で司会(MC)と審査員。この回はママタルトの檜原が優勝し、番組はギャラクシー賞の月間賞に選ばれた
  • 音楽活動もしていて、11月のツアーでは新しいアルバムを会場だけで売り、「サブスクやらん!」(聴き放題の配信には出さない)と宣言

大晦日の告知に変わったスポニチへの警告

  • 19時6分=Xに「スポニチへ」で始まる投稿。22時までに取り下げの連絡をするよう求める
  • 19時40分ごろ=YouTubeに動画「スポニチへ」を公開
  • 20時39分=生配信「スポニチ待ち(切り抜き禁止)」を始める(切り抜き禁止=配信の一部を切り取って広めないで、という意味)
  • 22時10分ごろ=連絡がないまま、配信で大晦日の『ツッコミスター』を発表
  • 22時18分ごろ=番組の公式Xが「2026/12/31 大晦日 年またぎ」の告知画像を出し、新聞各社の記事も出はじめる
  • 22時44分=粗品がXに「スポニチざまあみろ」と投稿
  • 21日4時=スポニチアネックスが「フジテレビ 粗品で年越し!」の記事を配信

粗品によると、記事が出る前に新聞社がふつう入れてくる「この話は本当ですか」という確かめの連絡が来ている、という話が粗品の耳に入ったのは、この日の17時ごろでした。

スポニチが書こうとしていたのも、翌朝に出たスポニチの記事を見ると、この大晦日の特番でした。

もともとは11月末ごろにフジテレビから発表される予定で、最初に世の中へ出すときの面白い仕掛けも準備していたのに、それが全部なくなった、と本気で悔しがっています。

 

あまりに鮮やかなので、「最初から仕組まれた番宣(番組の宣伝)だったのでは」と疑う声も出ていて、「スポニチもグルの可能性もあるけど」と書き込む人もいました。

ただ、番組の現場からも「急遽ですが」という書き込みが出ていて、少なくとも番組の側にとっては急な発表だったようです。

そして22時を過ぎると、粗品は「こんなに同接集めてくれてありがとう」「おかげさまで普通に発表するより注目度高まってるわ」と、スポニチにお礼まで言ってから発表に入りました。

同接は、同じ時間に配信を見ている人の数のことで、発表のころには6万人を超えていたといいます。

スポニチを待つ時間まで見せた生配信

期限を自分で切り、その時間まで生配信で連絡を待つ。

それだけで見ている人は「いったい何をリークされたの?」と、画面の中の手がかりを自分から探しはじめます。

この夜、考察する人たちが飛びついた手がかりは次の3つです。

  • あのちゃん(以前に交際のうわさが出て、2人とも否定しているタレント)が、粗品の投稿をリポスト
  • 音を消して話す場面で口元が映り、見ていた人が「あのちゃん」「トイズファクトリー」(あのちゃんの所属事務所)と唇を読む
  • 黒いネクタイから、結婚式を思わせる白いネクタイへの締め替え

結婚の報告ではないかという予想が一気にふくらんだところで、粗品はたっぷり間を取り、出てきたのは大晦日の番組の告知でした。

見ていた人からは「すべて考察勢に対するミスリードだった」「末恐ろしい策士」という声まで上がっています。

ただ、唇を読まれた場面について、粗品本人は配信で「口元隠すの忘れてて」と話していて、どこまでが狙いだったのかは本人にしか分かりません。

 

なかでも1つ目のリポストは、あのちゃんからの援護でもありました。

2人は、毎週火曜に配信されるテレビ東京の番組『あのと粗品の電電電話』で共演している仲で(騒ぎの当日の18時ごろにも148回目が配信されたばかり)、リポストしたのは、粗品がスポニチに取り下げを迫った「スポニチへ」の投稿そのもの。

言葉は何も足さないまま、騒ぎのまっただ中で粗品の側に立ってみせた形で、粗品は配信の終わりに「あのちゃんもリポストありがとう」とお礼を言っていました。

発表の裏では、フジテレビに「22時台に発表していいですか」と聞き、すぐにOKをもらっていて、粗品は「フジテレビあっぱれ」とたたえています。

部屋の外には偉い人たちも集まり、配信には番組のチーフプロデューサーまで顔を出すほどでした。

同じ配信では、もとになったYouTubeの大会「ツッコミマン」の予選を11月に大阪と東京で開くことや、大晦日の番組をクリスマスのころに収録して観覧も募集する予定であることまで伝えています。

自分の知らせは自分で出す粗品の発信力

特番の知らせを、新聞社と競り合って先に出す。

そんな芸当ができるのは、新聞が朝の紙面に載せるより先に、自分のチャンネルで何万人もの人へ直接届けられるからです。

 

もうひとつの武器は、自分に起きた困ったことまで笑いに変えてしまう芸風です。

2023年7月には離婚していたことを自分の生配信で明かし、「1人賛否」では、自分がニュースに書かれたときのことまで笑いの材料にしてきました。

収録の現場から漏れた粗品の結婚の話

配信の中で粗品は、「全てのことはもう全員知ってるんですよ、この業界って」と話し、その例として、自分の結婚の話を持ち出しています。

粗品は2021年の暮れ、『人志松本のすべらない話』の収録の日に婚姻届を出し、番組の中で「さっき結婚しまして」と話していました。

憧れの番組で、松本人志に面白い形で伝えたかったからで、その回の放送は2022年1月29日でした。

 

ところが収録の現場は、マネージャーやヘアメイク、技術のスタッフ、ディレクター、プロデューサーと、大勢の人が出入りする場所。

粗品によると、収録の2日後には3社ほどから吉本興業に確認の連絡が来たのだそうです。

結局、待ってもらうよう頼んだうえで、放送より1か月早い2021年12月30日に、霜降り明星のYouTubeで自分たちから先に結婚を発表しています。

スタジオの中だけの秘密が、わずか2日で外へ出ていたのです。

誰を通じて伝わったのかは、配信でも明かされていません。

交際も結婚も離婚も、粗品が記事より先に自分の口で伝えようとしてきたことは、粗品がスポニチに激怒した理由…「明日の紙面」に何が出るのかでも取り上げています。

後手に回ったスポニチのスクープ

22時の期限で、スポニチに残された道は3つです。

  • 取り下げる=芸能人のひと声で新聞が記事を下ろした、という前例が残る
  • 黙って朝を待つ=本人に先を越される
  • 前倒しで先に出す=社内の確認がいるので、朝5時ごろに出すとみられる記事を早めるのは難しい(粗品は配信でそうからかっていた)

スポニチから連絡はなく、粗品は「古い情報が明日の朝出るだけやろ」と言い放ちました。

さらに、発表のあとで最初に記事を出したデイリースポーツを画面に映して、「スポニチより早いです」「スポニチが1番早かったはずやのに、後手に回ってしまった」と、楽しそうに読み上げています。

粗品は、自分が騒ぐほどスポニチの記事が読まれることも分かっていて、それでもスポニチと縁が切れるなら「全然安い代償」で、これは「手切れのPV」(縁を切る相手に、最後に読まれる数だけはくれてやる、という意味)だと言い切りました。

 

粗品がいちばん腹を立てていたのは、「水差し」でお金を稼ぐやり方でした。

みんなが楽しみにしている発表に、横から先に答えを言ってしまうことです。

配信では、そういうやり方を「部活のOBか」とたとえていました(呼ばれてもいないのに顔を出して、口を挟んでくる先輩のことです)。

 

粗品は、今後の会見にスポニチを呼ばないと言い切り、吉本興業とスポニチの関係は会社どうしの話として任せて、自分は「個人レベルで戦う」と宣言。

そのうえで、「週刊誌もそろそろな」とまで口にしたのです。

週刊誌にも同じように線を引くつもりなのか、その中身まではまだ語っていません。

 

そして一夜明けた21日、粗品が言っていた5時より1時間早い朝4時に、スポニチのニュースサイト『スポニチアネックス』は「フジテレビ 粗品で年越し! 大みそかの特番MCに抜てき」という記事を配信しました。

書き出しは「放送することが20日、分かった」で、出どころは「関係者によると」とだけ書かれています。

前の晩に粗品が自分の配信で発表したことにも、取り下げを迫られたことにも、ひと言も触れていません。

そのかわり記事には、粗品がレギュラーを務める『新しいカギ』が22時ごろまで放送されたあと『ツッコミスター』が始まり、カウントダウンで元日を迎えることや、5月の放送が同じ時間帯のコア視聴率(13歳から49歳までの男女)で1位だったことなど、配信では語られなかった中身も書かれていました。

大みそかは紅白歌合戦があるので、テレビ業界では「捨て枠」と言われることもある時間帯で、フジテレビはその夜を粗品に任せています。

ネットでは、この先もし粗品に大きな発表があったとき、スポニチだけが会見に呼ばれないことが効いてくる、と先を見越す声も。

スクープを番組の宣伝に変えた粗品の発表

発表から1時間ほどのうちに、デイリースポーツや日刊スポーツ、オリコン、読売新聞、お笑いナタリーが次々に記事を出し、見出しにはどれも「粗品」の名前。

スポニチさえ踏み台にして、番組の宣伝としてはこれ以上ない形になった、と受け止めた人がいる一方で、結婚のような大きな発表を待っていた人からは、「ただの番宣か」と拍子抜けする声も上がりました。

それでも粗品自身は、準備していた仕掛けを配信でやっていたとしても「どうせ5万人も集まってなかった」と話し、結果的にはこれでよかったと受け止めています。

 

秘密は本人以外に話した時点で漏れる、と身をもって知っているからこそ、粗品は漏れたその日のうちに、自分の口で全部言ってしまいました。

怒りも番宣も、記事より先に自分の配信で見せきってしまう。

そこが、ほかの芸人にはまねのできない、粗品の手腕の末恐ろしいところなのでしょう。