2026年9月19日、愛知県と名古屋市で第20回アジア競技大会が開幕しました。

クルーズ船に入れないまま一晩、韓国の試合で北朝鮮の国歌、決勝の朝に来ないバス、日付が変わってから始まる試合、旭日旗と台湾の旗を並べた「持ち込めません」の貼り紙。

開幕をはさんだ2週間で、表に出た不手際はこれだけあります。

韓国の新聞は「史上最悪」とまで書き、日本語のSNSには「恥ずかしい」という言葉があふれました。

総額3700億円、そのうち2700億円を愛知県と名古屋市の税金でまかなう大会で、これか。

そう言いたくなるのは当然です。

その一方で、「OCAが直前に人数を増やしたせいだ」「なんでもかんでも日本のせいにしないでほしい」という声も上がっています。

 

大会を主催するのはアジア・オリンピック評議会(OCA)で、現場を回すのは愛知県と名古屋市がつくった組織委員会。

その会長を務める大村秀章知事は、開幕の25日前の会見で、契約を超えた人数の宿は用意しないと言い切っていました。

なぜここまでこじれたのかは、選手村をあきらめた日までさかのぼると見えてきます。


選手村と一緒に消えた送迎と受付

今回の不手際は、多くが選手の宿と移動のところで起きています。

その根っこにあるのは、選手村を作らなかったこと。

当初の構想は、名古屋の広い競馬場の跡地に選手村を建てて、大会のあとは分譲マンションとして残すというものでした。

ところが2023年3月、建築資材の値上がりで建設費が大きく膨らむ見込みとなり、組織委員会は選手村の整備そのものを取りやめています。

代わりに選ばれたのが、宿を4つに分けて組み合わせる分散型の方法でした。

  • 既存のホテル
  • 4000人が泊まれる大型クルーズ船
  • 港に並べたコンテナ型の仮設宿舎
  • 民泊

この形を、主催者であるOCAは擁護しました。

OCAの事務局長を務めるフサイン・アルムサラムは、アラブニュースの取材に「確かに選手村は見栄えがいい。しかし最終的に、私たちは実用的である必要がある」と答えています。

お金の面だけを見れば、筋の通った判断にも見えるでしょう。

ただ、選手村は寝る場所であると同時に、全員の食事も受付も送迎バスも1か所で回すための仕組みでもありました

それをやめて宿をホテルと船とコンテナに散らせば、毎日の受付も配車も、宿ごとにばらばらに組むことになります。

そもそも宿を押さえるのは、どこまでが大会の仕事なのか。

大会には開催都市契約という文書があって、開催地が何人ぶんの宿泊を引き受けるかは事前にそこに書いてあります。


知事が言い切った「宿泊施設はない」

日本側とOCAのあいだで交わされた開催都市契約では、選手とチーム役員の枠は最大1万5000人。

ところが開幕まで1か月を切ってから、OCAはその枠を大きく超える1万7000人以上という数字を示してきました。

曲面の台でサッカーボールを打ち合うテックボールと、壁に囲まれたコートでするテニスに似たパデルという、日本ではまだなじみの薄い2競技が加わったことが、理由のひとつとされています。

招致に手を挙げたのは日本ですが、あとから人数を動かしたのはOCAの側です。

組織委員会はOCAに人数を減らすよう正式に求め、選手を大幅に減らすのは難しいとして、監督など役員を減らす方向で調整に入りました。

そして2026年8月25日、大村知事は記者会見で、契約を超えた分の費用は負担しないという考えを示します。

 

「開催都市契約は1万5000人。予算はそれしか用意していない」

さらに「物理的に宿泊施設がない。それでも来るのなら自分たちで何とかしてもらうしかない」とも述べた、と時事通信は伝えています。

8月28日にはOCAから各国へ、一部のチーム役員の宿泊施設は各国・地域のオリンピック委員会(NOC)で確保してほしい、という通知が出されました。

翌29日にはOCAと組織委員会が連名で、「7月のエントリー・バイ・ネームの締切までに登録されたすべての選手及び役員について、大会にふさわしい宿泊施設が提供されています」という共同声明を出しています。

名前が固まっている人の部屋は用意した、という宣言です。

 

実際、開幕の5日前にフィリピン・オリンピック委員会の会長は、選手全員のベッドは確保されたとしたうえで、コーチなどの一部の役員は別のホテルやエアビーアンドビーへ移らざるを得なかったと明かしています。

8月に決まったのは、あくまで「誰が払うか」まで。

選手が今日どこに寝るのかという部屋割りは、開幕の直前まで現場の手で動いていました。

部屋があることと、その部屋へ選手がすぐに入れることは、別の話だったわけです。


当初1000億円が3700億円になった

2016年に招致が決まったときの計画は、アジア大会が850億円、アジアパラ大会が150億円で、合わせて1000億円。

ところが2025年12月に大村知事が公表した最終の見通しは、アジアパラ大会も含めて総額3700億円でした。

税金からの負担として公表されたのは、開催県である愛知県の約1800億円と、共催する名古屋市の約900億円。

 

上振れした理由のうち、金額の大きいふたつがこれです。

  • 物価と人件費の上昇=550億円
  • OCAや競技団体との協議・調整=600億円

総額の中身は、仮設の観客席や選手団の宿泊費などの大会経費2980億円と、会場の使用料や観客の輸送費などの約700億円を合わせたものでした。

OCAとの調整で膨らんだ分があるにしても、払うのは地元の税金です。

膨らんだ予算のなかで、選手村はあきらめ、上積みされた人数の費用は負担しないと決め、残った段取りで大会を回すことになりました。

3倍以上のお金をかけても、選手の宿と足までは手が回らなかったわけです


スポンサー集めを辞退した電通

これだけ大きな大会なら、電通や博報堂が仕切っているものだと思いますよね。

スポンサーを集める専任の代理店として、2020年の時点で内定していたのは電通でした。

その電通の辞退が明らかになったのは、2023年3月。

東京五輪の談合事件で起訴され、愛知県や東京都から入札に加わる資格を止められていたさなかのことです。

 

組織委員会は代理店を海外も含めた公募へ切り替え、同じ年の9月に、名古屋の新東通信を代表とする4社の共同事業体を選びました。

この形で集まったスポンサー収入は約270億円で、目標を上回っています。

組織委員会の中森康弘副事務局長は「苦労はあったが、結果的には大手代理店がやっていたことと変わりない」と話しました。

開幕の直前には、大手に頼らない大会の「ひな型」になるか、と紹介されていたほどです。

 

そのスポンサーの最上位にいるのが、フランスに本社を置くイベント会社のGLイベンツ。

組織委員会は2025年4月、競技会場の設営と運営の業務を、その日本法人と630億円で契約しました。

他社と競わせる一般入札にかけない、特命随意(ずいい)契約です。

選んだ理由は、フランスの親会社が大会最上位のスポンサーだから、というもの。

ところが親会社が払うはずの協賛金22億円は、2025年12月の愛知県議会で、まだ全額が入っていないと答弁されています。

スポンサーだからと競争を省いたのに、スポンサーとして払うはずのお金がそろっていない。

この日本法人は2025年の大阪・関西万博でも海外パビリオンの工事を元請けとして受け、下請けの会社から工事代金の未払いで訴えられています。

同じ12月の衆議院予算委員会では、その訴状から、この会社が「アジア大会への多額の協賛金を支出したばかりのタイミングのため、現時点では請求を支払うだけの資力がない」と答えていたという一文まで読み上げられました。

順番があべこべのまま、630億円の仕事だけが先に動いていたことになります

 

では、電通がいれば今回の混乱は防げたのか。

内定していた電通の役目は、スポンサー集め。

GLイベンツが受けたのも会場の設営と当日の運営で、選手の宿と送迎の段取りは、どちらの仕事にも入っていません。

開幕後、ある競技団体の関係者は「やっぱり(大手代理店が)長年にわたって培ってきたものがないと、こういう大きい大会の運営は難しいのでは」と漏らしています。

お金を集める仕事は、地元の4社でも回りました。

足りなかったのは、1万人を超える選手と役員を毎日泊めて運ぶ段取りだったのでしょう。


選手団のせいにされた12時間待ち

そのしわ寄せを最初に受けたのが、日本に着いたばかりの選手たちでした。

選手団を泊めるクルーズ船が名古屋港に入ったのは、開幕4日前の2026年9月15日。

翌16日に来日した中国選手団は、選手の情報がシステムに見当たらずバスを手配できないと言われ、体操チームは空港で6時間近く足止めされています。

中国の体操の張博恒は、日本に着いた日のことをこう振り返りました。

「午前7時に朝食をとった後、次に食事ができたのが午後7時近くになるとは思わなかった」

「こうして1日が基本的に無駄になった」

同じ16日にはインドや韓国などの選手団も空港でバスを待たされ、インドの選手の中には、クルーズ船に12時間以上入れないまま、長椅子の上で夜を明かした人もいます。

タイのセパタクロー代表にいたっては、部屋に案内されないまま船のロビーの床で寝ることになったと報じられました。

インド選手団の団長を務めるサデブ・ヤダブは、AFP通信には「これらはすべて初期トラブルに過ぎず、私たちは今、パフォーマンスに集中している」と答えています。

ところが自国の新聞の取材では、口ぶりがまるで違いました。

「日本の組織委員会側はすべての責任を放棄した。日本に来た我々に『宿泊施設はないので、自分たちで何とかしてください』と言っている」

 

やっと入れた部屋にも、問題がありました。

港に並んだコンテナ型の宿舎は1棟に最大6人が入る造りで、ベッドの長さは1メートル95センチ。

韓国のバスケットボール協会の幹部は「身長が2メートルを超える選手は、ベッドの上で足を伸ばすことさえできない」と話しています。

中国の男子バスケットボール代表は3人1部屋でトイレとシャワーを共用していると現地で報じられ、「選手村ではなく難民村に近い」という批判まで出ました。

韓国の男子バスケットボール代表のビョン・ジュンヒョンは、宿舎のトイレで水が漏れている様子をSNSに公開し、「助けてください」と投稿しています。

 

寝床の次は、食事と移動。

インドの射撃チームのヘッドコーチ、サマレシュ・ジャングは「午後9時を過ぎてから空港に着いた我々は(移動用の)バスにも乗れず、食べ物もなかった」と話し、チームがホテルに着いたのは早朝の午前4時ごろでした。

カタールとの初戦に向かった韓国のサッカー代表のバスは、試合会場を間違えて近くの野球場へ向かっています。

そして開幕のあとの9月22日、組織委員会は乗船が遅れた理由を公式サイトで説明しました。

遅れたのは、選手団から出された書類の不備をそろえるのに時間がかかったから。

12時間待たされた側に返ってきたのは、書類をそろえなかったそちらのせいだ、という説明でした


韓国を怒らせた秀吉と北朝鮮の国歌

韓国からの怒りがいちばん強いのは、宿の話ではありません。

9月15日、クルーズ船の入港を祝う歓迎イベントに、地元の観光PRを担う名古屋おもてなし武将隊が登場しました。

並んだのは、地元で三英傑と呼ばれる織田信長と豊臣秀吉と徳川家康。

豊臣秀吉は日本では郷土の英雄ですが、秀吉が率いた文禄・慶長の朝鮮出兵は1592年から1598年まで続き、隣国に深い傷を残しました。

各国の選手団を迎える場に秀吉を立たせたらどう受け取られるか、誰か1人くらい気づけなかったのか。

そう思った人は多いはずです。

大韓体育会のユ・スンミン会長はすぐに、OCAと組織委員会あてに強い遺憾を示す公式文書を出し、組織委員会は「特定の歴史的人物を擁護、美化する意図はなく、歴史的メッセージを広報する目的もなかった」と説明しました。

競技そのものは、開会式より前から始まっています。

歓迎イベントから3日後の18日、岐阜県で行われた男子ホッケーの会場で、韓国の試合なのに北朝鮮の国歌が流れました。

聞き慣れないメロディに、戸惑ったまま立ち尽くす選手たち。

場内には英語で謝罪のアナウンスが流れ、組織委員会も「本件でご迷惑をおかけした関係者の皆さまに深くおわびいたします」と謝罪しました。

 

ところが翌日の19日、愛知県稲沢市で行われた女子ハンドボールの韓国対香港戦では、今度は国歌そのものが流れません。

前日のミスを受けてOCAが演奏をいったん取りやめていたためで、チームには事前の説明もないまま。

韓国のイ・ゲチョン監督は試合のあと、「国際大会でこうしたことはなかった」と当惑した様子で話しています。

この試合では電光掲示板も誤作動を繰り返し、48対16の試合で31対31の同点と出る場面までありました。

謝った翌日に、同じ国歌の場面がもう一度崩れたわけです

組織委員会は9月23日、18日の取り違えを「現場の担当者が流す音源を誤った人為ミス」と説明し、機器にはその日に流す予定の国歌だけを入れておく形へ運用を改めました。

取り違えのあとで運用を改めたということは、それまで本番の前に音源を確かめる手順ができていなかったことになります。


中国は1球も投げず韓国は練習できず

試合そのものが消えた日もあるのです。

9月17日、愛知県日進市で予定されていたクリケット女子の準々決勝、バングラデシュ対中国。

前の夜の大雨でグラウンドの水が引かず、スタッフが吸水ローラーや雑巾で整備を試みても、ぬかるみは最後まで直りませんでした。

日程の都合でこの試合はやり直されず、大会規則に従って世界ランキングが上位のバングラデシュが準決勝へ進んでいます。

中国は1球も投げないまま、この大会を終えました。

 

雨が降ったこと自体は、誰のせいでもありません。

引っかかるのは、流れたあとの手当てです。

開幕2日目の9月20日には、もう男子バスケットボールの決勝があり、顔を合わせたのは日本と韓国でした。

韓国代表はその午前に別の体育館でシュート練習をする予定でしたが、宿舎へ迎えに来るはずのバスが、何の連絡もないまま現れません。

ほかに移動する手段も見つからず、決勝当日の練習はそのまま中止に。

代わりに行われたのは「軽い散歩」だったと、韓国のスポーツメディアOSENは伝えています。

理由を日本側の担当に確かめると、返ってきたのは「担当者が見落とした」という説明だけだったそうです。

韓国は野球と女子バレーボールでも、公式練習の日程や場所が届かず、自前の練習場やホテルのジムで体を動かしました。

決勝の結果は67対57で、直前の練習ができなかった韓国の勝ち。

中国からは試合を、韓国からは直前の練習を、段取りの抜けが奪いました

 

ピッチそのものも傷んでいます。

9月26日、サッカー男子準々決勝の日本対北朝鮮が行われた豊田スタジアムでは、何か所も芝がはがれて土が見えていました。

このスタジアムは9月16日から日本戦を中心に続けて使われていて、23日のタイ戦のときにも傷みが指摘されていたそうです。

テレビの前からは「ピッチボコボコやん」という声が上がっていました。


宮崎友花の3回戦は午前0時8分

同じ9月26日の夜、今度は試合の時間そのものが崩れます。

一宮市総合体育館のバドミントン女子シングルスは、2回戦と3回戦を1日で戦う日程でした。

世界ランキング7位の宮崎友花は2回戦を勝ち上がり、3回戦でリオ五輪の銀メダリストであるインドのシンドゥ・プサルラと当たります。

 

組まれていたのは、第2コートの17試合目。

前の試合が長引いても空いた別のコートへ回されることはなく、始まったのは日付が変わった27日の午前0時8分でした。

最寄りの一宮駅へ向かうシャトルバスは22時40分で終わっていて、スタンドに残っていたのは関係者を含めてわずか数人だったそうです。

9-21、13-21で敗れ、試合が終わったのは午前0時49分。

 

同じ日に2試合を戦った韓国の世界ランキング1位、アン・セヨンも「ちょっと眠らせてほしいと思った。それぐらいに本当に大変だった」と話しています。

同じ9月26日、組織委員会の村手聡事務総長は、大会の前半を振り返る会見で頭を下げていました。

「様々な原因がございます。どれにしてもサービスを提供する責任は組織委にあるということで、率直にミスが生じた事に関してはお詫びを申し上げたい」

そのうえで、これまで競技に影響が及ぶようなトラブルは起きていない、と説明しています。

 

流れたクリケットも、練習ができなかった日韓決勝も、この会見より前の話。

競技に影響はないと説明したその夜、選手は日付が変わったコートに立っていたわけです

大会は10月4日まで続き、村手事務総長は、日々の改善を後半に生かしたいと話しました。


完売のはずだった開会式の空席

見に行く側の席でも、同じようなことが起きています。

9月19日の夜、名古屋市のパロマ瑞穂スタジアムで行われた開会式。

大会に向けて約3万席に建て替えた会場ですが、始まる直前から各所に空席が目立ち、その空きは式典が終わるまで埋まりませんでした。

大村知事は「チケットは完売」と述べていたと伝えられています。

大会の公式サイトを見ると、開会式のチケットは一度売り切れになったあと、2026年9月8日に「演出プランの確定に伴い相当な枚数を本日から追加で販売」と発表されました。

開幕の11日前のことです。

売り切れの表示を見て諦めた人のところへ、その追加販売は届きませんでした

 

開会式の翌日の9月20日には、自転車のロードレースの会場へ向かうシャトルバスまで、当日になって運休しています。

空席は、1週間たっても埋まっていません。

AFP通信によると、9月25日の夜のパロマ瑞穂スタジアムは3万席のうち4分の1ほどしか埋まらず、サッカーを含む8つの競技でチケットの販売率が6割に届いていないのです。

組織委員会は、開会式のチケットは9割以上が売れていて当日来なかった人が多かったと説明し、村手事務総長は販売の状況に「満足はしていない」と認めました。

知事の言う「完売」とは、少し数字が違います。

しかも、当日来なかったのが誰だったのかまでは説明されていません。

「企業に配った券が余っただけじゃないの」と思った人も多いはずです。


北朝鮮寄りと言われたTBSの中継

スタンドだけでなく、テレビの前でも不満が噴き出しています。

この大会を地上波で放送しているのはTBSですが、開会式は地上波で中継されず、最初から見られるのは有料の動画配信サービスだけでした。

そのTBSが9月26日、豊田スタジアムの日本対北朝鮮の試合で出したテロップが、「猛攻の北朝鮮が追い着くか?」。

試合は前半39分に日本が先制し、北朝鮮の選手の激しい抗議でおよそ3分止まる荒れた展開。

視聴者からは「猛攻を防げるかならわかるけど、追いつくかってなんか相手側目線じゃない」「なんで北朝鮮を応援してんねん」という声が相次ぎました。

ラフプレーの目立った北朝鮮を実況が「クリーン」と伝えた、という書き込みも広がっています。

 

日本で開く大会で、日本代表の試合を、日本の視聴者に向けて流す中継です。

日本が1点を守っている場面で、相手を主語にしたテロップを出す理由がありません。

試合は1対0で日本が勝ち、4強入り。

日本代表が勝った夜でさえ、テレビの前に残ったのは中継への怒りでした


旭日旗の貼り紙は「現場の誤った認識」

同じ9月26日、岡崎中央総合公園野球場で行われた野球の日本対チャイニーズ・タイペイ(台湾)。

その入口に、1枚の貼り紙が出ていました。

刷られていたのは旭日旗と台湾の旗(中華民国の国旗)の2つで、その下に日本語と英語と繁体字の中国語で「上記の旗は持ち込めません」。

前の日の25日、2次ラウンドの台湾と中国の試合でも、「Taiwan」と書いたタオルを掲げようとした台湾のファンが係員に止められ、スタンドでは抗議の「チーム台湾」の声が上がっています。

大会の規定で禁じているのは、参加していない国の旗を掲げることと、政治的な主張の入った品の持ち込みです。

「Taiwan」の文字だけのタオルについて、大会側に特別な禁止の決まりはないと、台湾の新聞は伝えました。

 

貼り紙は翌27日の台湾と中国の3位決定戦ではもう見当たらず、組織委員会は28日になって公式サイトにお詫びを載せています。

「当然、旭日旗は持ち込み禁止の対象ではなく、現場の誤った認識により掲示したものであり、観客の皆様に不快な思いを抱かせる結果となったことを、深くお詫び申し上げます」

読んで「台湾の旗は?」と引っかかった人は少なくありません。

お詫びに出てくる旗は旭日旗だけで、台湾の旗が大会の規定で禁止に当たるのかどうかも、タオルの話も、ひと言も出てこないからです。

台湾はオリンピックやアジア大会に「チャイニーズ・タイペイ」の名前で出ていて、2024年のパリ五輪でも「台湾」と書いた応援グッズの没収が相次ぎました。

ただ、今回は日本語と英語と中国語でわざわざ刷った貼り紙です。

誰がこの2つの旗を選んで入口に出したのかは、お詫びのどこにも書かれていません

 

旭日旗は、韓国がこれまでの国際大会で何度も持ち込みに抗議してきた旗です。

その韓国では、大学の教授がこの貼り紙の写真を添えて「今後、国際スポーツ大会で旭日旗の応援を防ぐ良い前例として活用できる」とメールで伝え、現地のメディアが記事にしました。

組織委員会が間違いだったと取り消しても、入口に貼り出された1枚は、もう「良い前例」と呼ばれ始めているのです。


OCAだけのせいにできない国歌とバス

「悪いのはOCAだ」という声には、ちゃんと根拠があります。

開幕まで1か月を切ってから1万5000人の枠を1万7000人以上へ広げたのも、選手村なしを「実用的」と後押ししたのも、OCAです。

ただ、韓国の試合で北朝鮮の国歌を流したのも、決勝の朝のバスを見落としたのも、売り切れの表示のあとで開会式の追加販売を始めたのも、野球場の入口に旗の貼り紙を出したのも、OCAではありません。

国歌とバスと貼り紙については、組織委員会自身が担当者や現場の誤りだと認めています。

OCAが悪くしたのは大会の条件で、国歌とバスをそろえきれなかったのは組織委員会です

 

ただ、OCAが悪くした条件と、当日の段取りのこぼれは切り離せません。

選手村をやめて宿がホテルと船とコンテナに散らばっていたところへ、2000人以上が直前に増えれば、毎日のバスの本数も受付の人手も、そのたびに組み直すことになります。

余裕のない段取りを毎日回していけば、どこかの確認がこぼれる。

こぼれた先が、国歌の音源であり、配車の一覧であり、深夜まで延びたコートの割り振りだったのでしょう。

その段取りを束ねる組織委員会の会長は、愛知県の知事です。


頭を下げるのは現場の人たち

会場で真っ先に頭を下げるのは、受付や場内の放送、バスの配車を受け持つ現場の人たち。

受付の列を整理している人も、バスの配車を直している人も、渡された音源を再生した人も、この10年ぶんの決定にはほとんど関わっていないはずです。

「恥ずかしい」という声が出るのも、自分の国のことだからですよね。

問われているのは、3700億円を預かりながら国歌とバスを当日までにそろえられなかった、知事が会長を務める組織委員会の段取りなのかもしれませんね。