2026年9月11日、韓国のクレーンゲームの景品から有害物質が見つかったと報じられました。

いちばん高かったもので、基準値の347.5倍です。

子どもの生殖機能や成長に影響を及ぼすおそれがある、と説明されている物質でした。

 

報道の下に並んでいたのは、韓国の話としての驚きではありませんでした。

「うちの子が抱いて寝ているのは平気なの?」という不安の声で。

なかでも多かったのが、ぬいぐるみやキーホルダーで人気のキャラクター、ラブブについての書き込みです。

「うちのラブブは大丈夫なの?」と。

 

韓国で何が出たのか、日本の線引きはどこにあるのか、順番に見ていきます。


韓国の無人クレーンゲームで見つかったもの

調べたのは韓国消費者院です。

2026年4月から7月にかけて、店員のいない無人のクレーンゲーム店から景品20種類を集めて、成分を見ています。

そのうち12種類、割合にして6割が基準を超えていました。

「半分以上がアウト」という酷い結果です。

 

出た物質は2つに分かれます。

ひとつがフタル酸系可塑剤で、20種類のうち9種類から。

もうひとつが金属で、発がん性物質のカドミウムと、発がん性の可能性がある鉛が一部の景品から見つかっていて。

 

フタル酸系可塑剤というのは、硬いプラスチックをやわらかくするために混ぜる薬剤のことです。

ぬいぐるみのタグや目、キーホルダーの本体といった、指でぐにゃりと曲がるパーツには、ほぼ使われています。

特別なものに入っていたという話ではなくて、やわらかい部分に何を使ったかという話なのです。

 

日本でこのニュースが回り始めたときの反応は、わりとはっきりしていました。

「次は気をつけよう」と大人が反省するだけならまだしも、クレーンゲームの景品は、取った本人が子どもであることがものすごく多くて。

取れた瞬間に頬ずりして、そのまま抱いて帰って、その晩から布団に入れる。

そういう使われ方をする物から出た、という話なんですよね。


基準値の347.5倍がどれくらいなのか

347.5倍と言われても、正直なところ大きいのか途方もないのかが掴みにくいところです。

この手の基準値は「ここを超えたら即座に病気になる」という線ではなくて、一生ずっと触れ続けても大丈夫と言える量から、さらに安全側へ何十倍も余裕を取って引かれています。

だから2倍でも3倍でも回収が動くんです。

つまり安全のために積んでおいた余裕を使い切って、それでもまだ300倍以上あるということになります。

「基準をちょっとオーバーした」で済むレベルではありません。

 

どういう作られ方をすると、そんな数字になるのか。

ここは、韓国で去年おこなわれた別の調査のほうが答えになっていて。

2025年に韓国の税関が、押収した偽造品の中身を調べたときのものです。

鉛が最大41.64パーセント、という数字がいちばん怖いところでした。

表面に塗った塗料に混ざっていた、という話ではありません。

材料そのものの4割が鉛だった、という意味になります。

 

ここが、うっかりすると読み飛ばしてしまう部分で。

表面に塗られたペンキ程度なら、水拭きで多少は落とせます。

けれど材料に混ぜ込まれていたら、洗っても拭いても減りません。

その物が家にある限り、ずっとそこにあり続けます。

 

なぜそんな作り方をするのかというと、鉛もカドミウムも、安く色を出したり重みを持たせたりするのに都合がいいからです。

正規のメーカーはそこにお金をかけて別の材料を使い、コピーを作る側はかけません。

削ったコストが、そのまま素材の中身として残っているわけです。


公式のラブブではなく模造品から出ている

消費者院の発表では、有害物質が出た景品のほとんどが模造品とみられると書かれています。

日本でも人気のキャラクターを模した人形などが含まれていた、という説明でした。

 

つまり公式が作って売っている商品が危ないという話ではなくて、それに似せて別の誰かが勝手に作った物から出ています。

本物のラブブではなく、いわゆる海賊版、俗に「ラフフ」と呼ばれるバッタもんのほうで。

ただ、ここで「じゃあ本物を買えばいい」と言ってしまうと、話が急ぎすぎます。

実際のところ、本物と並べて見比べでもしない限り違いは分かりません。

詳しい人でも、公式が出した新作を見て「偽物かと思った」と書くくらいです。

リークの画像が出たときは「ラフフやん」と思ったけれど、実物はかわいかった、という投稿でした。

本物を本物として見分けるのも、それくらい難しいのですよね。

「うちのがどっちなのか分からない」と悩む親御さんも多いはずで。

家族で愛用していたものが、あとから「あれラフフだったんだ」と分かる。

買った人が不注意だったから起きているのではなくて、見分けられない物が普通に売られているから起きています。

そこを一緒にしてしまうと、ただの自己責任の話になるんです。


10か月前にも出ていた同じ物質

さきほどの税関の調査を、もう少しきちんと見ておきます。

報じられたのは2025年11月6日で、2024年の上半期に摘発した偽造品を分析したものでした。

 

摘発された品は全部で60万6443点。

そのうち250製品の成分を調べたところ、112点から鉛やカドミウム、可塑剤が基準を超えて出ました。

ラブブの偽物についていえば、5点のうち2点から基準値の344倍にあたる可塑剤が検出されています。

 

344倍と347.5倍。

10か月離れた別の調査で、ほぼ同じ数字が出ているわけです。

偶然というより、検査を通った正規品とは別に、同じ危険な手口のものが場所を変えて流れてきたと見るほうが自然です。

 

ただ、去年と今年では止まった場所が違っていて。

去年のものは税関で押さえた品で、店に並ぶ前の段階でした。

今年のものは、無人店の機械の中に景品として入っていたもの。

誰かが取って、持って帰れる状態になっていたということです。

 

そして韓国で買ったものは、そのまま日本へ入ってきます。

ラフフを大量に買って帰国した、という投稿です。

韓国の空港で書いたひと言が、飛行機に乗っているあいだに広まっていたそうで。

旅行のお土産として配られてしまえば、出どころはもう誰にも分かりません。

 

そして、注意喚起そのものはずっと前から出ていました。

2023年の時点で、フリマサイトで偽物をつかんだ人からの依頼を受けて、個人が拡散希望の画像を作って流しています。

当時はお金と著作権の話として受け取られていて、体に入る物質の話としては読まれていなかったのだと思います。

それが今回、体の話としてつながりました。


日本のおもちゃの規制は6歳未満が線

いちばん多かった疑問が、これでした。

触らないようにしているらしいけど親としては心配、というところに全部が詰まっている気がします。

 

日本でおもちゃの成分を縛っているのは、意外なことに食品衛生法です。

口に入る物を扱う法律なので、おもちゃもそこに入っている、という組み立てで。

フタル酸エステルも鉛もカドミウムも規格が決まっていて、輸入するときには届出をして審査を受けます。

 

ただ、この規制がかかるのは指定おもちゃと呼ばれるものに限られています。

中身は「6歳未満の乳幼児が口に接触することで健康を損なうおそれがあるおもちゃ」。

おしゃぶりや積み木のように、赤ちゃんが口へ運ぶことが前提の物が想定されています。

線は6歳です。

 

逆に言えば、そこから外れる物があります。

大人がカバンに付けるマスコットなどは、乳幼児向けのおもちゃと違って検査の対象から外れてしまうということです。

推し活バッグにぶら下げるマスコットは、制度のうえでは乳幼児が口に入れる物として設計されていません。

そこが抜け道になります。

 

だから「日本のは検査されていないだけでは」という書き込みを、私は大げさだと思いませんでした。

デパートに並ぶ正規品なら、所定の書類審査はクリアしています。

ただ、6歳以上が持つ前提の雑貨に対して、乳幼児向けと同じ密度で成分を見る仕組みがあるかというと、そこは別の話で。

 

海外にはある決まりが日本には無い、という話は今回だけではありません。

フリマアプリで盗品や海賊版を通報しても出品が消えないのも同じで、アメリカには出品者の身元を確かめさせる法律があるのに日本には無いのが理由でした。

今回も、足りていないのは日本側の決まりのほうです。


日本のクレーンゲーム景品は誰が決めているのか

では、日本のゲームセンターに並んでいる景品は、誰がどう決めているのか。

業界団体の日本アミューズメント産業協会がガイドラインを出していて、そこに基準が書かれています。

中身は、小売価格でおおむね1,000円以下のものにすること。

2001年からずっと800円で、2022年3月1日に1,000円へ上がりました。

 

この数字を見て、あれっと思われた方もいるかもしれません。

「1個1000円」という枠だけで、素材の安全性には一切触れていません。

パチンコなどのギャンブルを防ぐ法律が元なので、ある意味では仕方がないのですが。

 

そして1,000円以下という枠は、作る側から見ると相当に厳しいものです。

その値段に収めたうえで、大きく見えて、色が派手で、取れたときに嬉しいものを作る。

どこかを削るしかなくて、削られる場所は取った人の目には映りません。

景品の中身については、前からこんな声も出ていて。

楽しいかどうかの話として出た投稿ですが、裏を返すと、機械に何を入れるかは店の判断ひとつだということでもあります。

 

そこに、無人店という形が重なりました。

店員が常駐していない分、仕入れも補充も少人数で回ります。

韓国の調査が無人店を狙って行われたのも、たぶんそこに理由があったのでしょう。


日本でも2月に出ていた注意喚起

ここまで読んで、日本は無関係だと思えたら楽なのですが、そうもいきませんでした。

2026年2月、POP MART JAPANが自社のキャラクターを使った3Dシールについて注意喚起を出しています。

出回っているものはすべて偽造品で、正規の輸入手続きや品質・安全検査を経ていないため、有害物質が含まれている可能性もある、という内容でした。

 

韓国の話ではありません。

日本のオンラインショップや店頭で売られていたものの話です。

「もっと早く教えてよ」と頭を抱えた親御さんも多かったはずで。

このシールは、それくらい広く出回っていました。

流行りものの名前として、ラブブと並べて挙げられるくらいです。

 

しかも、見抜く側のプロが取りこぼすこともあります。

買取と検品を仕事にしている会社を通しても、こういうことは起きます。

買取のプロですら騙されるのに、一般の買い手が見抜けるはずもありません。

 

それから、こういう話で毎回ひっかかるのが企業側の言葉づかいのほうで。

商品に何かが入っていたとき、それが何なのかを説明する段になると、途端に歯切れが悪くなることがあります。

2026年9月に飲食店の醤油差しへ白い粒がびっしり付いていた騒動でも、「虫じゃない」で済ませた説明のほうが燃えました。

消費者が知りたかったのは呼び名ではありません。

「結局、体に毒なの?」という結論だけを急いで知りたいはずです。


この記事で参考にした資料

体に関わる話なので、数字の出どころを置いておきます。

気になった数字があれば、ここから確かめられるはずで。

  • 韓国消費者院の調査(2026年4月〜7月・無人クレーンゲーム店の景品20種類)/FNNプライムオンライン・日テレNEWS NNN 2026年9月11日
  • 韓国関税庁による偽造品の成分分析(2024年上半期の摘発分)/2025年11月6日報道
  • 食品衛生法にもとづく指定おもちゃの範囲と規格(厚生労働省)
  • アミューズメント施設における景品提供営業のガイドライン/日本アミューズメント産業協会・2022年3月1日改正
  • POP MART JAPANによる偽造品への注意喚起/2026年2月

 

それから、この件でいちばん腑に落ちた見方を1つだけ。

本家のほうも、コピーに土台を削られている側ではあるのですよね。


家にあるぬいぐるみをどうするか

ここまで並べておいて、捨てましょうと書くつもりはありません。

愛着のあるお気に入りを無理やりゴミ箱へ放り込むのは、親としても胸が痛みます。

 

まず確かめられるのは、買った場所のほうです。

公式ストアや正規の取扱店で買ったものであれば、輸入の手続きは通っています。

「やけに安いな」と感じたネット通販や、旅先の露店で買った品、出所不明の景品は要注意で。

 

そのうえで、真贋(しんがん)を確かめる方法はいちおう用意されています。

タグや箱のQRコードを読むと、公式の認証ページへ飛ぶようになっています。

箱を捨ててしまっていると使えない手ではあるのですが、残っているなら数秒で済むはずです。

 

もし確かめようがなかったとしても、できることは残っていて。

フタル酸系可塑剤も鉛も、口へ入れたり長く舐めたりしたときに問題になりやすい物質です。

触ったあとに手を洗う。

口へ運ぶ年齢の下の子には持たせない。

この2つを足すだけでも、入り口はだいぶ細くなります。

 

やわらかい塩化ビニルの部分は、タグや目のパーツなど限られた場所です。

布の胴体そのものを気にするより、そこだけ見るほうが現実的だと思います。

 

そして、いちばん言いたかったのはここでした。

今回のことで責められるべきは、コピー品を作って流した側と、それを景品として詰めた側であって、可愛いと思って取った人ではありません。

「自分が不注意だったせいだ」と親御さんが自分を責める必要はありません。

 

なお今回の調査は、韓国国内で流通していた景品を対象にしたものです。

日本の店舗にある景品を調べた数字ではありません。

つまり日本の分がどうなっているかは、いまのところ誰も測っていません。

 

調べれば分かることなのに、まだ誰も調べていない。

その空白のいちばん奥に、うちの子のぬいぐるみが置かれているのですよね。