2023年の夏、SNSで「そうだ、ラオス行こう」という言葉が回っていました。

海外の風俗で短期間だけ働けば、日本よりずっと稼げる。

そう勧めていた発信者のひとりが、じつは反社会的勢力と組んで売春のあっせんに関わっていた。

いまXで、そんな指摘が改めて出ています。

 

ネットでは、風俗やAVで働いた過去を掘り返して人を責める動きが、いまも定期的に起きていますよね。

あっせんに関わっていたのなら、そちらのほうがよほど重い話のはずなのに、誰も掘り返さない。

名指しされている人は、報道に一度も出たことがありません。

そのため、確かめられるのは「何が言われてきたか」までになります。

そのかわり、舞台になった2023年夏のラオスについては、当時の記録がはっきり残っていました。


1年半前にも出ていた同じ指摘

指摘の中身は、大きく分けて2つです。

ある発信者が反社会的勢力と組んで、海外での売春をあっせんしていた。

そして、その組織のトップが逮捕されたあと、関係する投稿がすべて消された。

ただ、名指しされているのは本名も職業も表に出ていない人です。

ハンドルネームだけで話が通じてしまうくらい、ある界隈では知られている、という程度。

その界隈というのが男女論、つまり男女の対立をめぐる言い合いが集まっているXの一角になります。

 

そしてこの指摘、今回がはじめてではありません。

まったく同じ話を、1年半以上前に別の人が書いています。

なお冒頭に出てくる「パキちゃん」は当時のまったく別の騒動で、今回の件とは関係ありません。

2025年2月の投稿です。

「そうだ、ラオス行こう!」という言い回しまで一致していますよね。

ただし、この「会長」が誰を指すのかは、いまの投稿にも今回の指摘にも書かれていません。

それに当たる人物がいつ何の容疑で逮捕されたのかも、報道からは確かめられませんでした。

名指しされている側が説明を出した形跡もありません。

消されたとされる投稿のほうも、第三者が保存していた画面の写しが出回っているだけなので、いつ何を書いていつ消したのかを外から並べ直すことはできないのです。

 

はっきりしているのは、同じ指摘が1年半以上前から繰り返されているということだけ。

誰かが認めたわけでも、公に否定したわけでもないんですよね。

投稿だけが残っている話を、どこまで信じるか。

じつは同じ壁に、中国での出稼ぎ暴露を調べたときにもぶつかりました(高橋ほなみの海外出稼ぎ暴露…中国で警察沙汰の投稿はどこまで確かなのか)。

 

とはいえ、この話にも確かめようがある部分がひとつだけあります。

2023年の夏、ラオスがどういう場所だったか。

そこには、指摘の真偽とは別の意味で背筋の寒い記録が残っていました。

「そうだ、ラオス行こう」が回っていた夏

空港の出発ロビーとキャリーケースを引く人の後ろ姿のイラスト

2023年の6月ごろから、SNSで「ラオスなら稼げる」という話が急に増えました。

日本の店で働くよりずっと稼げる、短期で行って帰ってくればいい。

ちょうど円安がいちばん話題になっていた時期で、海外で稼ぐという発想そのものが、あちこちで持ち上げられていた頃でもあります。

同じ時間だけ働くなら、日本円で受け取るより外貨で受け取ったほうが多くなる。

その理屈自体は間違っていないので、「海外なら稼げる」という言葉に妙な説得力が生まれてしまったのだと思います。

 

その年の8月には、FRIDAYをはじめ週刊誌やニュースサイトも取り上げました。

付いていた見出しが「ほぼ奴隷契約」。

当時から、いい話としては扱われていなかったわけです。

 

ただ、SNSで回っていたほうの言い方は、そこまで重くありません。

「思ったより普通だった」という体験談も混ざっていたので、余計に判断がつきにくかったのでしょう。

そんな空気のなかで、現地を取材している人たちは早い段階から声をあげていました。

日付は2023年6月19日。

稼げるという話が広がりはじめたのと、同じ月です。

つまり行こうという声と、行くなという声が、同じタイムラインに並んでいたわけですね。

あとから「そんなに危ないとは知らなかった」で済ませるには、ちょっと無理があるはずです。

調べようと思えば、その日のうちに出てきた情報なので。


日本大使館が出していた注意喚起の中身

では、大使館は何を言っていたのでしょうか。

ラオスとカンボジアの日本大使館は、2023年の時点で日本人向けに注意を呼びかけています。

 

好条件の求人を見て入国したあと、パスポートを取り上げられる。

渡航費や紹介料を立て替えたことにされて、いつのまにか借金を背負わされる。

そして風俗の仕事だと聞いていたはずが、詐欺の実行役として電話をかけさせられる。

 

当時、この注意喚起を紹介していた投稿がありました。

「助けられないから宜しく」は、この投稿者の言い方です。

大使館の文書にそう書いてあるわけではありません。

ただ、意味としてはそう遠くないかもしれません。

大使館ができるのは、事情を聞いて相談に乗ることと、必要なら帰国の手続きを助けることまでです。

相手の組織へ乗り込んで連れ帰る権限はありません。

現地の法律の外側で動いている組織が相手なら、なおさら手が届きませんよね。

 

「大使館があるから最悪なんとかなる」と読んでしまうと、逆になります。

なんとかならない可能性のほうを前提に書かれた文書ですから。

 

そもそも、この手の注意喚起は思いつきで作られるものではありません。

被害に遭った人からの相談が実際に届いて、同じ相談が続いたときにようやく文章になるのです。

2023年の時点で出ていたということは、すでに同じ目に遭った日本人がいたということでもあります。

紹介料という名前の借金で動けなくなる

引き出しの中に置かれたパスポートと閉じられた南京錠のイラスト

大使館が挙げていた3つ、つまりパスポート・借金・詐欺の実行役。

これはばらばらに起きるのではなく、決まった順番でやってきます。

そこにこの手口のいやらしさがあるのです。

 

先に出してもらえるのは、渡航費や部屋代。

ここまでは親切な会社に見えるので、断る理由がないんですよね。

それが入国したとたん、借金に名前を変えます。

そのうえでパスポートを預かられるので、返し終わるまで帰れない。

逃げようとすれば暴力で止められた例も報告されています。

 

ここで効いてくるのが、借金の額を決めるのが相手側だという点です。

いくら返したのか、あといくら残っているのか、それを確かめる手段が本人の側にありません。

だから真面目に働くほど終わりが見えなくなる、という話になってしまうのだと思います。

怖いのは、この仕組みが本人の意思をまったく必要としないところ。

自分で決めて行った人でも、着いた瞬間に決める側から外されます。

行くか行かないかは選べても、帰るか帰らないかは選べません。

そして、そういう場所には日本の法律も届かないのです。

最後の一行が、いちばんきついところですね。

 

ちなみにラオスへ渡っているのは、働きに行く日本人だけではありません。

買いに行く日本人もいて、日本の法律はこの2つを別々に扱っています。

買いに行った側は、相手が18歳未満なら日本で罰せられます。

児童買春・児童ポルノ禁止法に、国外犯を処罰する規定があるからです。

いっぽう働きに行った側のほうは、成人の売春を定めた売春防止法に国外犯の規定がありません。

海外で働いた本人が日本の法律で罪に問われにくいのは、そのためです。

 

ただ、これは守られているという意味ではないはずです。

日本の法律が届かないなら、日本の警察も現地では動けません。

助けが来ない理由にも、そのままなっているのですから。


タイでは日本人女性が行方不明になっている

これは、ラオスだけの話でもありませんでした。

2024年11月には、こんな報告も出ています。

国境沿いで、裸足のまま見つかった。

この一行だけで、そこまでに何があったのかは想像がついてしまいますよね。

靴を履く時間もなかったということなので。

 

行方が分からなくなるだけでなく、現地の警察に捕まる形もあります。

同じ2024年11月に、香港の警察が売春に関わった疑いで35人を逮捕しました。

そのなかには日本のAV女優3人が含まれていて、1度の売春で300万円ほどを受け取っていた例もあったそうです。

金額だけ見れば、日本の店では出てこない数字ですね。

 

ただ、働く場所が海外になると、困ったときの逃げ道がまるごと変わってしまいます。

日本の店なら、トラブルが起きれば警察も労基署も相談先になるでしょう。

海外で同じことが起きたときに頼れるのは現地の警察と大使館だけで、そのどちらも組織の内側までは入ってこられないのです。

 

そして、行方不明の話と逮捕の話には共通点があります。

捕まったり行方が分からなくなったりしているのは、いつも現地へ行った側。

行こうと声をかけた側の名前は、こういう報道にほとんど出てきません。

誘い文句を書いた人が現地にいるわけではないので、ある意味では当然なのですが。

3年たったラオスでいま起きていること

では、あれから3年たったラオスはどうなったのでしょうか。

2026年に入ってから、こんな摘発が続いています。

 

6月23日、特殊詐欺の拠点が摘発され、日本人9人を含む17人が拘束されました。

このときは「警視庁」と書かれた偽の警察手帳のようなものまで押収されています。

6月29日には別の拠点で100人以上が拘束され、そのうち7人が日本人。

7月27日にも、ホテルを拠点にしたグループで外国人51人が摘発され、日本人の男女5人が含まれていました。

ひと月半で、名前の出た日本人だけで20人を超えます。

2023年の注意喚起にあった「詐欺に加担させられる」が、そのまま形になって出てきたわけですね。

ただ、拘束された人がどういう経緯で現地にいたのかまでは分かっていません。

だまされて連れて行かれた人と、承知のうえで行った人の両方がいるかもしれませんし。

 

拘束されたあと、すぐ日本へ帰れるとも限らないのです。

現地の法律で立件されれば、その国の手続きで裁かれることになります。

 

そして風俗のほうも、終わってはいませんでした。

2026年8月の投稿です。

置屋(おきや)というのは、女性を住まわせて客を取らせる店のこと。

取材した本人が、そこの管理人に脅されたと書いています。

 

2025年には、この地域へ向かう日本人の買春について外務省が異例の注意喚起を出しました。

2026年4月には、12歳から16歳の少女3人を相手にした疑いで、日本人の男がラオス当局に拘束されています。

 

詐欺の拠点と、少女を集めている町。

仕事の中身は違っても、外から来た人間を働かせて逃がさない組織が動いている場所という点は同じです。

2023年に「行こう」と言われていたのも、この同じラオスです。

当時は「危ないらしい」で止まっていた話が、いまは拘束された人数と年齢まで出てきます。

行かなくてよかった、で片づけられる話ではないでしょう。


ホストの売掛が海外行きの入口になる

ここまでは、着いた先で何が起きるかという話でした。

気になるのは、その飛行機に乗るまでのところです。

 

2023年の入口は、タイムラインに流れてくる誘い文句でした。

自分で読んで、自分で決めて、自分で航空券を取る。

危ないと知らされていなかった問題はあるにせよ、行くと決めたのは本人だったわけです。

 

ところが同じころから、まったく別の入口のほうが報じられるようになっていました。

そこで出てくるのが、ホストクラブの売掛です。

売掛というのは、その場で払えなかった飲み代をお店にツケておく仕組みのこと。

それが払える見込みのない額まで膨らんだとき、穴を埋める役を買って出る人が出てきます。

 

2024年6月に毎日新聞が書いていたのは、女性に海外への売春出稼ぎをあっせんしたとしてブローカーの逮捕が相次いでいる、という話です。

毎日新聞が背景として挙げていたのも、やはりホストクラブへの支払いでした。

 

実際に捕まった例も、日付つきで残っています。

2024年4月にはアメリカでの売春をあっせんした疑いで求人サイトを運営する会社の社長らが捕まり、2025年2月には同じくアメリカへの出稼ぎ売春をあっせんした疑いで、警視庁がスカウトの男を逮捕しました。

このとき報じられた女性の売り上げは、1か月で約960万円。

 

そして2025年6月28日、改正風営法が施行されます。

ホストが恋愛感情につけこんで高額な注文をさせることも、売掛金の悪質な取り立ても、ここでまとめて禁じられました。

売掛を抱えた女性が性風俗店へ流れていく道を、日本を出る前に断ち切る。

それがこの改正の狙いで、店の側が紹介料を払うことまで対象に入りました。

無許可で営業した場合の罰金も、法人なら上限3億円まで引き上げられています。

 

ところが、そのあとに増えたのは国内ではなく海外のほうだったようです。

週刊SPA!が2026年1月に出した記事の中で、風俗店の事業者団体の担当者はこう話していました。

改正の前後から海外出稼ぎ売春の紹介が増えている実感がある。

警視庁や大阪府警と意見交換したところ、具体的な件数は不明ながら、捜査現場の感覚では確実に増えているという話だった、と。

 

手口のほうも、同じ記事に出ています。

売掛が50万から60万円なら国内の店でも返せるけれど、200万、300万となると話が別で、そこへ闇金業者や、女性を店へ紹介するスカウトが立て替えに入ってくる。

出稼ぎに行くことを担保にお金を貸す、という形になります。

 

そのときに書かされるのが、念書だそうです。

借金の額と返済額、本人の個人情報、通っていたホストクラブと担当ホストの名前。

そこに実家の住所と親の名前まで並ぶのですから、逃げるという選択肢は日本にいるうちに潰されていることになります。

 

行き先として多いのは韓国とオーストラリアで、次が東南アジアだそうです。

しかも、いまは稼げないという声のほうが目立ちます。

同じ記事によると、一日15万円を超えないなら海外へ行く意味はないのに、オーストラリアでも一日10万円という声が多いそうです。

稼げるのはごく一握りで、残りの9割は苦しんでいる、とも説明されています。

 

そして2026年9月、この入口の話が日本のタイムラインに戻ってきました。

9月12日にセクシー女優の倉木華さんが亡くなり、その翌日、歌舞伎町のホストから受けていたこととして6つの項目が告発されます(倉木華の訃報|活動休止の3か月間に何があったのか)。

そのうちのひとつが、これです。

海外への出稼ぎの斡旋、空港まで送り出した。

 

名前の挙がったエルコレというホストグループについて、同じ日にこんな呼びかけも出ています。

写真でも、知人から聞いた話でもいいと書いてあります。

ほかにも同じ目に遭った人がいるはずだ、という前提で集めているのでしょう。

 

3年前の「そうだ、ラオス行こう」は、それでもまだ誘い文句でした。

いまはその手前に、借金と念書が置かれています。

行くかどうかを自分で選べた人と、選べないところから空港へ向かう人。

乗る飛行機は同じでも、手のなかに残っているものがまるで違うのです。

ただ、こちらの話には日本の中に紙が残ります。

書かされた念書も、立て替えたお金の記録も、消えずにどこかにあるはずですから。

忘れられる過去と掘り返される過去

机の上に散らばった古い写真の束と画面の暗いスマートフォンのイラスト

風俗勤めやAV出演の過去は掘り返されて、あっせんの疑惑は掘り返されない。

この差は、どこから出てくるのでしょうか。

 

夜の仕事をしている人の間では、昔からこう言われてきました。

2、3年経てばみんな忘れる。

2017年の言葉ですが、いま見るとちょっと事情が違うかもしれません。

忘れられるかどうかを決めているのは、時間ではなく記録の量のほうだからです。

お店で働いていた過去は、写真や動画や店の記録として残ります。

作品として売られたものは、なおさら消えません。

本人が忘れてほしいと思っても、モノのほうが残るんですよね。

いっぽうで、SNSの投稿は本人が消せます。

消したあとに残るのは、それを見ていた人の記憶と、たまたま保存していた画像だけ。

持ち出せる証拠がない話は、広げようとした人のほうが「証拠を出せ」と言われる側に回ります。

 

つまり掘り返される側と流される側を分けているのは、みんなの正義感の強さでも、やったことの重さでもありません。

手元にどれだけ記録が残っているかで決まっています。

放っておいても消えないほうだけが、延々と叩かれ続けるわけですね。

 

そして消す側も、それを知っているから消すのでしょう。

ただ、消したこと自体が逆に注目を集めてしまう場合もあります。

3年前に消されたとされる投稿が、消されたという一点だけでいまも語り継がれているのが、まさにそれです。

この件が本当のところどうだったのかは、私にも分かりません。

名指しされている側が何も言っていない以上、「そう言われている」までしか書けないので。

そこを決めるのは、読んだ人それぞれでしょう。

 

それでも、2023年の夏に回っていた誘い文句が何だったのかは、はっきり残っています。

そして同じ形の求人は、いまもSNSに流れています。

短期で稼げる、渡航費は出す、部屋も用意する。

3年前とほとんど同じ言葉。

もし身近な誰かがそういう話を持ってきたら、儲かるかどうかより先に、帰ってこられるかどうかを聞いてみるといいかもしれませんね。