2026年9月18日、映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』が公開されました。

青島俊作が主役の新作としては、2012年の『THE FINAL 新たなる希望』以来14年ぶりになります。

ところが公開初日の夜から、タイムラインの空気が妙なことになりました。

「今年ぶっちぎりのワースト映画」というショッキングな言葉がSNSで回りはじめ、そこへ「わたしだけじゃなかった」と安堵する声が次々とぶら下がっていきます。

 

すっかりベテランの58歳になった青島俊作が、3Dプリンターの拳銃が出てくる現代的な誘拐事件を追う話。

ネットの騒ぎに火をつけたのは、公開2日前にフジテレビの朝の番組で主演の織田裕二さんが生で話した中身でした

※以下、犯人と動機、そして2024年の『室井慎次』2部作の結末に触れますのでご注意ください。


織田裕二が言った「勝手に殺すなよ」

映画公開直前の2026年9月16日、主演の織田裕二さんがフジテレビの看板番組『めざましテレビ』に生出演しました。

ファンと同じく続編を待っていた長い時間について聞かれて、率直にこう答えています。

「10年待っても(続編が)こない。確認したら”やらない”って言うから、もう青島とは会えないんだなと諦めてた」

 

その後にまさかのスピンオフである『室井慎次』2部作が動き出すのですが、あろうことか織田さんのところへ事前の連絡なし。

「ネットですよ。なんも連絡来ないですよ」

しかも自分から確認して取り寄せた脚本には室井の死がはっきり書かれていて、肝心のそこに青島の出番はまったくなく、出てきた言葉が「勝手に殺すなよ」、そして「出番ないってどういうことですか?出せ!」でした。

シリーズの仕掛け人であるプロデューサーの亀山千広さんは2024年9月のXスペースで、その室井の映画については織田さんへ事前に伝えていたと生の声で話していました。

長年タッグを組んできた二人の間で食い違っているのは、室井の映画を作るという大事な話が織田さんへ伝わっていたかどうかの一点だけで、どちらの記憶が正しいのかは分からないまま、モヤモヤした空気で公開の日が来てしまったんですよね。


怒りの矛先が織田裕二に向かわない

本作を大々的に製作したのは、民放キー局のフジテレビジョン。

2003年の『THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』は興行収入173.5億円という前人未到の数字を記録し、実写の邦画としては2025年に『国宝』へ抜かれるまで22年間ずっと1位に居座り続けた大看板でした。

そして2025年1月、フジテレビは所属タレントをめぐる一連のトラブルの対応で記者会見を開き、企業のスポンサーがいっせいにCMの放映を止める異例の事態になります。

青島と室井は、警察組織の上と現場に分かれながらも、ずっと同じ理想のものを見ていた二人だったはずです。

長年その片方を演じてきた人が、もう片方の相棒の最期をネットニュースで知ったことになります

作品のなかで28年ぶん描いてきた警察の風通しの悪い縦割りを、製作側の会社が自分で実演してしまったわけですね。


AIで喋らせたいかりや長介

連絡ひとつ入れないというその雑さは、亡くなった役者の扱いにもそのまま出ているんですよね。

かつて若き青島に現場の刑事のイロハを厳しく教えたベテラン係長が和久平八郎で、青島にとって父親のような存在を演じたいかりや長介さんは、惜しまれつつ2004年3月に亡くなっています。

本作はその声を最新のAIで無理やり作り直し、過去の名台詞を劇中でもう一度しゃべらせました。

いくら声はそっくりでも、いかりやさんがそこにいた血の通った感じだけは戻ってきません

大手映画情報サイトの映画.comには「和久さんを侮辱しないでほしい」という直球のタイトルのレビューまで投稿されていますし、かつて2019年の紅白歌合戦でも、AI技術で再現された美空ひばりさんが歌って世間の賛否が大きく割れました。

もっとも、また和久さんの声が聞けたこと自体に泣いた人もいます。

同じ場面で涙をこぼした人と、もう見ていられなかった人が、同じ劇場から出てきました。

そして映画の終盤には、過去作の懐かしい映像を何本もつないで強引に泣かせにかかる場面まで入るので、そこまで並べられると、さすがに泣かせにきているのが見え透いてしまうのです。


室井も和久さんももういない

AIで便利に戻ってきたのは声だけで、かつて青島の隣に立って共に戦った人はもう誰も残っていません。

盟友の室井が物語のなかで死んだのは2024年公開の『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』の2部作、師匠の和久さんを演じたいかりやさんが亡くなったのはその20年前。

長年の相棒だった恩田すみれを演じた深津絵里さんも、今回は残念ながら出ていないので、空いた枠のそこへ新しい顔ぶれが入り、無理をして懐かしい顔も呼び戻されます。

 

映画の中に残っているお馴染みの顔ぶれの描かれ方にも、オールドファンからはっきり不満が出ています。

水野美紀さんが演じる真下雪乃は、かつて青島たちと同じ最前線の現場に立って戦っていた刑事。

刑事だったはずのその雪乃が、今回はただの母親として長々と演説します

不満は、雪乃のひと場面では止まりませんでした。


懐かしい顔が出るたびに事件が止まる

画面からいなくなった主要な人を埋めるように、過去作へのファンサービスの量は不自然にふくらんでいます。

本作の上映時間は142分。

そしてこの長さのなかに、昔のシリーズを見てきた人にしか分からない顔がカメオ出演のように次から次へと出てくるので、顔が出るたびに近況の挨拶と思い出話が要って、そのぶん肝心の事件捜査は足踏みします。

予告の1カットから展開を当てにいく鋭いファンが当たり前にいる時代です。

その目の前で、何分が顔合わせと近況報告に使われたかを隠し通すのは無理でしょう。


若者を怖がる大人の目線

肝心の事件のほうにも、同じズレが出ています。

劇中で物々しく「225事案」と呼ばれるこの誘拐事件は、デジタル化が進んだいまの東京を舞台にきっちり緻密に組まれていて、3Dプリンターで作られた自作の拳銃やウイルステロといった、いかにも現代的で物騒な道具が出てきます。

追う警察の側もAIの導入で様変わりしていて、物語の舞台はまぎれもなく最新の2026年の東京です。

 

ところが画面の中の大人たちは、自分たちの都合を棚に上げて若い世代を「何を考えているか分からない」と匙を投げながら捜査します。

捕まった事件の犯人は女子高生で、その動機をざっくり言えば「大人が憎い」という単純なものでした

しかも劇中で難解な事件をサクサク解いていくのはAIとネットの力なのに、なぜか映画の結論だけは昔ながらの汗を流す「足で稼ぐ」へ戻るのです。

捜査の道具は2026年、でも映画がたどり着く答えは昔のまま。

ブームを作った1998年の『踊る』は、現場を這いつくばる所轄の刑事の側から大きな世界を見せてくれる映画でした

それが今回、得体の知れない若い世代を安全な場所から遠くから眺める側の目線に、すっかり入れ替わってしまったと思います。


「いたよ」の一言で泣いた人

それでも観客がグッと泣けたのは、技術でこねくり回したAIの和久さんでも、感動を煽る過去映像でもありませんでした。

旧友の名前を聞いた青島が一拍おいて静かにこぼす、「いたよ」というたった3文字です。

趣里さん演じる新キャラクターの芝田ひばりがふと口にした中西修も、かつて青島と同じ湾岸署で汗を流し、もう画面には出てこない懐かしい刑事のひとりです。

もう出てこない人のことを青島が覚えている、それがこのたった3文字だけで痛いほど伝わってきます

わざわざAIで亡き人の声を作り直さなくても、生きている役者の表情や顔ひとつで十分に足りたわけですね。

事件の粗さに目をつぶり、映画全体を長寿シリーズの同窓会として素直に楽しんだ人も客席にはいたのでしょう。


壊滅していない3.4という点数

大手レビューサイトのFilmarksでついている評価の平均は、公開から3日たった2026年9月21日の時点でも5点満点中3.4のままです。

集まった3,645件のうち、可もなく不可もなくの★3.1〜4.0に過半数の55%が固まっています。

いちばん下まで振り切った★1.0〜2.0は、全体の10%だけです

初日の翌日はまだ1,367件でしたから、レビューが2.7倍にふくらんでも真ん中はびくともしていません。

数字だけを見れば、作品そのものが総崩れだったわけでもないんですよね。

レビューの点数は平凡な真ん中で止まっているのに、出てくる言葉だけが極端に先へ振り切れていました


3日で引っ込んだ酷評の声

その言葉が、公開から3日で先に落ち着いています。

いまXで「踊る 酷評」と打つと、並ぶのは酷評を見て身構えて劇場へ行ったら普通に面白かった、という報告です。

3連休で席につく人が増えるほど、初日に飛び出した強い言葉は後ろへ流れていきました。

いちばん激しく落胆したのは、いちばん長く待っていた人たちだったわけですね

そうやって静まったのは、映画の出来をめぐる言い合いです。

「勝手に殺すなよ」から始まった話は、3日たっても1ミリも動いていません


同じ夜に並ぶ連ドラ11話とネプリーグ

叩かれた3連休が終わらないうちに、フジテレビは動きました。

2026年9月21日の深夜から、連続ドラマ版『踊る大捜査線』の全11話を5夜連続で一挙に放送します。

そして同じ日の夜7時、『ネプリーグ』は2時間まるごとの踊るコラボ特番。

レジェンドチームと新世代チームという分け方で映画のキャスト陣が並び、織田裕二さんはこの番組へ初めて出ました

作品が殴られた直後に、局を挙げた総力戦が始まったわけですね

 

地上波で流すぶんは無料でも、28年ぶんの過去作を配信で追いかけようとすると話は変わります。

相棒を殺す話を本人に伝えなかったのも、亡くなった人の声をAIで作り直したのも、いま11話を一気に流しているのも、決めているのは全部ひとつの会社です。

映画を組み立てる手つきと、番組を並べる手つきは地続きです

作品につけた点数は3日で真ん中へ戻ったのに、会社につけた点数だけが戻ってきません

もう見ないと決めた人も、今度こそはと劇場へ行った人も、引っかかっているのは28年ぶんの相棒に一報すら入れなかったあの態度なんですよね。