2026年9月22日、愛知県小牧市で行われたアジア競技大会の女子バレーボール決勝で、日本は中国に0対3で敗れました。

地元開催の大会で、1セットも取れないままの完敗です。

負けた直後のタイムラインに並んだのは、勝敗そのものより強い言葉。

何年もテレビの前で女子バレーを追いかけてきた人ほど、「前はこうじゃなかった」という違和感を抱えています。

 

ところが世界ランキングを開くと、日本はいまも6位でアジアの1位です。

強さの数字は動いていないのに、見ている側の体感だけが先に落ちている。

「弱くなった」という言い方では足りないものが、順位表と日程表の中にありました。


中国に0対3で終わった決勝

準々決勝は9月20日、8月のアジア選手権と同じチャイニーズタイペイを3対0で下しています。

翌21日の準決勝も、韓国を25-20、25-22、25-16のストレートで退けました。

ここまで4戦全勝で、落としたセットは予選のインドネシア戦の1つだけ。

そして9月22日の決勝、相手は3連覇を狙う中国でした。

結果は19-25、20-25、23-25。

1セットも取れないまま、48年ぶりの金メダルが目の前で消えました。

第3セットだけは、日本が一時8点をリードしています。

19-19で追いつかれて、そこからひっくり返されての23-25でした。

 

肝心なところで勝ち切れない、詰めが甘い。

そう書き込んだ人の言い分は、この試合を見ていれば痛いほど分かります。

試合のあと、和田由紀子選手が口にしたのも同じところでした。

「押された場面で負けてしまう自分たちの弱さ、自分たちの精度で負けてしまった」

 

ただ、勝った中国の平均身長は187センチで、日本は178センチです。

その9センチを、拾って、つないで、走って埋めるのがこのチームの戦い方になります。

走る力がいちばん落ちるのは、夏3つ目の大会の最終日


どこも落ちていない世界ランキング

国際バレーボール連盟の世界ランキングで、日本はこの夏の時点で世界6位です。

中国を抜いてアジアでは1位ですから、順位表の上ではどこも落ちていません。

強豪18か国で争う夏のネーションズリーグでも準々決勝まで進み、ブラジルに敗れて7位。

 

ところが今回のアジア大会は、予選からつまずいています。

9月16日の初戦で格下のネパールを退けたあと、18日に当たったのがインドネシア。

世界ランキングでは日本よりかなり下の相手です。

立ち上がりの2セットは危なげなく連取します。

ところが第3セットはサーブと連係のミスが続いて23-25。

取り返した第4セットも25-23で、本来なら圧倒すべき相手と最後までもつれています。

それでも攻撃の得点は、二桁が4人。

秋本美空選手を筆頭に、和田由紀子選手、鴫原ひなた選手、佐藤淑乃選手が名を連ねています。

決定力は出ているのに、その手前のサーブレシーブとつなぎが何度も崩れていたのです。

 

紙の上では世界6番目のチームが、格下に1セットを取られて騒がれている。

数字と肌の体感がこれだけ食い違うときは、たいてい数字のほうが実態より古いのでしょう。

この「オリンピックも出れるかね」が、いまのチームのいちばん深いところを突いています。


8月に消えた ロス五輪切符

モヤモヤの出どころは、9月のこの大会よりも前にありました。

2028年のロサンゼルス五輪は、出場枠が世界で12しかありません。

その年の大陸選手権で優勝すれば、その場で1枚が決まる仕組みです。

日本にとってそれが、2026年8月に中国の天津で行われた女子アジア選手権。

予選を全勝で抜け、準々決勝でもチャイニーズタイペイをストレートで下すところまでは順調です。

ところが準決勝で同じアジアのタイに競り負け、そのタイが決勝で中国を破って優勝します。

ランキング上はアジア1位の日本が、アジアに1枚だけのプラチナ切符をタイに持っていかれたのです。

そのタイは9月のアジア大会でも、3位決定戦で韓国を3対0。

 

日本は3位決定戦でイランに勝って銅メダルを確保しましたが、狙っていたものはそこではありません。

悔しさの中で切符が消えた夜、天津のコートで何が起きていたのかはこちらです。

▶女子バレー石川真佑の涙…全部ひとりで背負おうとする姿が切ない

残されたのは2つだけ。

2027年のワールドカップで3位以内に入るか、2028年のネーションズリーグ終了時点で世界3位以内に入るかです。

どちらも待つ期間が長く、条件も重くなります。

いちばん現実的だった最短の道が消えたのは、この夏の8月29日でした。


6月から続いた国際大会3つ

2026年の女子日本代表が夏に回った国際大会は3つ。

6月から7月のネーションズリーグ、8月のアジア選手権、そして地元開催の9月のアジア競技大会です。

そのあいだも、選手が所属する国内リーグの日程は止まりません。

主力はほとんど休みのないまま、3つ目の大会のコートに立っています。

ここに出てくる「淑乃」は佐藤淑乃選手、「ゆっこ」は和田由紀子選手のこと。

どちらもネーションズリーグからアジア選手権、そして今回のアジア大会までぶっ続けで出ています。

今回のアジア大会に登録された日本の女子は、わずか12人。

格下が相手でも、疲れている主力をベンチで休ませられないまま大会に入っているわけです。

 

予選で1セットを落とした場面も、選手が急に下手になったわけではありません。

酷使された体と、修羅場の経験が足りない控えの差が、同じコートで一度に出てしまっただけ。

批判されているあの1セットは、チームの力量の限界というより、過密な日程が決めた結果だと思うのです。


古賀紗理那がいた頃は強かったのか

あの頃のバレーは良かった、という言い方もよく見かけます。

ただ、その古賀紗理那が主将を務めた2024年のパリ五輪で、日本は予選リーグを1勝2敗で終えて決勝トーナメントに進めませんでした。

古賀はその大会を最後にユニフォームを脱いでいます。

 

では、さらに昔の代表はどうだったのでしょうか。

のちに10年以上も司令塔をつとめる竹下佳江が正セッターに抜てきされたのは、葛和伸元が監督だった時代です。

その顔ぶれで臨んだ2000年シドニー五輪の世界最終予選は、3勝4敗の6位。

日本の女子は歴史上はじめて、五輪の出場権を目の前で落としました。

葛和監督は敗戦の責任を取って辞任しています。

いま黄金時代と呼ばれている時期も、悔し涙で切符を落とす夏から始まっていたのです。

その竹下が銅メダルを首にかけたのは、12年後のロンドン五輪でした。

「昔は強かった」と言える人は、負けた夏も一緒に見てきた人なんですよね。


負けた日だけ叩かれる振り付けと化粧

日程の話をすると、決まって出てくるのがベンチの振り付けへの不満です。

日本の女子代表は1点決まるたびに、控え選手が全員でポーズを取ったり跳ねたりします。

1点を争う場面で派手な振り付けが入ると、緊張感がそこで切れたように見えてしまう。

そうした演出が気になる人の気持ちは、一ファンとして私にもよく分かるんです。

 

ただ、このベンチの応援は2025年のネーションズリーグの頃から続いていて、勝っていた当時は放送局の公式チャンネルでも「バリエーション豊富な応援」と紹介されていました。

コートで同じことをやっていて、勝っていた時期には褒められ、勝てなくなってから急に気に障るようになったわけですね。

8月のアジア選手権でタイに敗れた夜も、試合中にリップを塗り直した数秒の映像と、選手が着けていた小さなピアスが叩かれました。

そのときSNSでどんな言葉が飛んでいたかはこちらです。

▶女子バレー“リップ”批判…なぜ見た目の話は負けた日にだけ始まるのか

 

なぜ負けたんだと理由を探している人の目に真っ先に入るのが、戦術よりもたまたま目立つその2つだっただけです。

サーブレシーブの乱れと唇の赤い色にどんな因果関係があるのかは、たぶん誰にも説明できません。

そしてインドネシア戦の夜、その矛先はひとりの名前へ集まりました。

▶佐藤淑乃に「伸び代がない」という声が多い件について

 

同じことは、男子と女子の比べ方にも出ています。

男子のアジア選手権は女子とは別に9月に開かれていて、日本代表はそこで優勝しました。

開幕の2年前という早さでつかんだ、ロサンゼルス五輪の切符。

男子は長いあいだ「五輪にも行けない」と言われ続けた時期があり、強豪から1セット取っただけで万歳していた景色を知る人がいます。

いっぽう女子は「東洋の魔女」と呼ばれた1964年の東京五輪から表彰台に乗ってきたぶん、最初から高い場所に置かれました。

男子が銅を取れば歴史的快挙で、女子が銅を取ると金ではないのかと言われる

 

アジア選手権のあとトルコへ発った石川選手も、男子の五輪出場決定についてこう話していました。

「自分たちが取れなかった悔しさを感じた」

外野が騒ぐよりずっと前に、その差を比べていたのは選手本人たちです。


けがの原因だけを止める競技規則

この話でいちばん多く飛んでくるのが、そもそもルールはどうなっているのかという問いでした。

バレーボールの競技規則が禁じているのは、けがの原因になるものと、体を人為的に有利にするものの2つ。

リップもネイルも、条文には出てきません。

国際大会では、引っかかる危険のない大きさならアクセサリーを着けたままプレーできます。

 

ところが中学や高校の大会になると、扱いはまるで別です。

ピアス、指輪、ネックレス、時計、ミサンガ、金属のヘアピンは、試合の前に全部外す。

爪も指の腹から出ない長さまで切るのが、部活では当たり前の約束です。

批判している人の多くは、自分が教わったルールに忠実なだけ。

 

では、実際にコートに立っていた人はどう見ているのでしょうか。

運動中に唇は乾くのか、という最初の問いには「乾く」という答えが並びました。

薬用のリップなら問題ないという、大学まで続けた経験者もいます。

爪については、短く切りすぎると爪と肉のあいだが剥がれて出血するという話も出てきました。

割れや欠けを防ぐためにジェルで爪を補強するのがアスリートネイル。

野球や陸上の選手にも広がっているそうです。

ただし、おしゃれ用のジェルは接着力が強すぎて自爪を傷めるという指摘もありました。

 

いっぽうで、ピアスの危険を具体的に語るのも経験者のほう。

レシーブで頭から飛び込んだとき、ピアスが当たるのは床や自分の腕です。

耳たぶは薄いので、引っかかれば裂けてしまう。

長く揺れるタイプは、大学の大会でも外すよう言われるそうです。

そしてもうひとつ、どちらの側からも出てくるのがタイミングの話でした。

監督が戦術を伝えている最中に塗り直すのは違うのではないか、という声です。

身につけるかどうかと、いつ手を動かすかは、別の問題として語られていました。

 

そのうえで思うのは、プロが実力と実績で評価される世界だということ。

プラスにならないことをやっていれば、いちばん先に自分へ返ってきます。

周りから見て不要に思えるルーティンでも、本人が必要だと判断しているなら、そこは本人の領分ではないでしょうか。

看板を背負ってコートに立っている人が自分で決めたことなら、それでいい


相手のベンチにも欠けていた主力

それにしても、決勝のあの負け方には納得がいかないという声もあります。

条件だけを並べれば、この指摘はそのとおりです。

中国は前日の準決勝でタイと5セットを戦い、日本は韓国を3対0で退けて体力を残していました。

会場は愛知県小牧市で、声援のほとんどは日本側。

休養も、地の利も、こちらにあったのです。

 

ただ、中国にも来られなかった選手がいました。

エースの李盈瑩選手は心臓の手術を受けて、8月のアジア選手権とこの大会をどちらも欠場しています。

3年前の杭州で日本から金メダルを持っていった、そのときの主砲。

コートに立っていたのは、ベテランを数人だけ残して20代前半を並べた布陣でした。

中国のメディアはこの大会を、ベテランが若手を引き上げる場だと書いています。

そして日本のことも、主力を多く欠いた若手中心のチームだと紹介していました。

二軍だと思われていたのは、お互いさまだった

 

では、いないと言われた選手たちはどこにいたのでしょうか。

宮部藍梨選手はアメリカでの新しいシーズンに向けて、チームへの合流と調整に入っています。

行き先は2027年に開幕するメジャーリーグ・バレーボールのミネソタで、移籍が決まったのは今年5月。

島村春世選手は6月に群馬グリーンウイングスへ移り、34歳で新しいクラブの開幕を迎えます。

石川選手のトルコ行きと合わせて、三人とも所属先の1年が秋から動き出すというだけのことです。

代表から外されたわけでも、日の丸を投げ出したわけでもありません。

あの杭州の決勝も、スコアは同じ0対3。

同じ相手に、同じスコアで2大会続けて止められたことになります。

アジア1位という数字を持っているのは、1セットも取れなかったほう。

リーグ戦から休みのないまま、夏3つ目の大会を最後まで戦い切った12人です。

この夏いちばん足りていなかったのは、たぶん休みなんですよね。