ボランティアが着る服は中国のブランド、開会式の聖火台は中国の会社の受け持ち、世界へ流れる試合の映像を撮っているのは中国の国営放送の系列。

どれも、愛知県と名古屋市で2026年9月19日から開かれているアジア大会の話です。

大会を運営する組織委員会の会長は、愛知県の大村秀章知事です。

開幕の前後には、選手が空港で何時間も足止めされたり、韓国代表の試合に北朝鮮の国歌がかかったりと、日本の大会とは思えない不手際も続きました。

そこへ、台湾のスポーツ大臣が式典の入口で止められ、野球場の入口には台湾の旗を「持ち込めません」とした貼り紙まで出ています。

日本で開いているのに、中身は実質、中国の支配下にあるのではないか。

その違和感には、ちゃんと裏づけがありました。


ボランティアの服は中国の361°

組織委員会が2025年8月1日に発表した大会スタッフのユニフォームは、中国・福建省のスポーツウェアブランド「361°(スリー・シックス・ワン・ディグリー)」が用意したものです。

キャップやポロシャツ、ジャンパー、シューズに、ジャケットとネクタイのスーツまで。

それを着るのは、この人たちです。

  • 大会を主催するアジア・オリンピック評議会(OCA)の役員
  • 審判などの技術役員
  • 組織委員会の職員
  • 大会ボランティアと、駅や街で案内をする都市ボランティア

「ようこそ愛知へ」と声をかける日本人のボランティアが、胸に中国ブランドのマークをつけて立っているわけですよね。

 

361°は、2010年に中国で開かれた広州大会からアジア大会に協賛していて、今回で5大会目になる会社です。

この大会でも、トヨタや中部電力と同じいちばん上のランクのパートナーに名前が並んでいます。

組織委員会がこの契約を発表したのは、2025年2月27日です。

ボランティアが袖を通す服は、開幕の1年半以上前に、中国の会社に決まっていたのです。


聖火台を作ったのは浙江省の会社

9月19日の夜、名古屋市のパロマ瑞穂スタジアムで開会式が行われました。

演出を手がけたのは名古屋出身の映画監督の堤幸彦で、歌舞伎の中村勘九郎ら中村屋一門が宙を舞い、名古屋城をかたどった大きなバルーンも登場しています。

ところが、式を形にする企画・制作・運営を、スポンサーとして受け持っていたのは、中国・浙江省の舞台設備メーカー、ダーフェン(Dafeng)です。

この会社が受け持ったのは、次の4つです。

  • 開会式と閉会式の企画・制作・運営
  • デジタルコンテンツ
  • 聖火台の設計と制作
  • パフォーマンスと文化プログラム

2023年に中国で開かれた杭州大会にも協賛していた会社。

 

開会式の翌日の2026年9月20日、浙江省のニュースサイト「浙江在線」は、この会社を開会式の「総操盤手」、つまりすべてを取り仕切った会社と呼び、こう書いています。

「通例ではアジア大会の開閉会式は開催国のチームが全責任を負うが、今回はその決まりが破られた」

聖火台は浙江省寧波市の余姚にある工場で作られ、名古屋へ運ばれて組み立てられたそうです。

トヨタのお膝元、ものづくりの県が開いた大会。

せめて火をともす台くらいは、地元の技術で作ってほしかったと思った人も多いでしょう。


世界へ流す映像は中国の国営系

テレビで見るアジア大会の試合も、大元の映像を撮っているのは中国の会社です。

日本ではTBSが放送していますが、会場にカメラを並べて試合を撮り、各国のテレビ局へ配る映像は、ホスト放送局と呼ばれる別の会社が作っています。

今回それを受けたのは、上海を拠点にするCMG-IMP。

CMGは中国メディアグループの略で、中国の国営放送のCCTVや、海外向けのCGTNを抱える放送グループ。

TBSの中継も、この映像を土台にして、実況や自前のカメラを足して作られています。

 

映像を撮る会社は、一度決まったあとで入れ替わっています。

2025年1月、組織委員会は誰でも参加できる一般競争入札を開きました。

税込みで約26億2000万円で落札したのは、ISBHAOという共同体。

スペインの放送会社に、中国の雅豪体育文化伝媒という会社が加わった組み合わせです。

ところが同じ年の7月28日、組織委員会はこの契約を解除し、大村知事は翌日の会見で「その後の協議がなかなかうまく整わなかった」と説明しました。

 

やり直しの入札は、組織委員会が声をかけた会社だけが参加できる指名競争入札。

そこで選ばれたのがCMG-IMPで、組織委員会は2025年9月16日、税込みで約51億6000万円の契約を結んでいます。

しかも、最初の契約のほぼ2倍の値段なんです

 

大会の費用は、障害者スポーツのアジアパラ大会と合わせて3700億円にのぼり、そこへ愛知県と名古屋市の税金から2700億円が入ります。

51億円を払う相手がなぜ中国の会社になったのか、入札の条件そのものを疑う声もあります。

求められたのは大きな総合大会で大元の映像を作りあげた実績で、2021年の東京五輪でさえ、それを作ったのはIOCが持つ放送会社でした。

日本のテレビ局には、ほぼ満たせない条件だと思います。

この条件を書いたのも、2回目の入札で声をかける会社を選んだのも、組織委員会です。


電源もLEDも会場のITも中国企業

裏方にも、中国の会社が並んでいます。

  • 大会運営の仮設電源=上海の会社
  • 会場の大型LEDスクリーン=深圳の会社
  • 会場の技術運営=北京の会社
  • 体操・空手・テコンドー・ボクシング・レスリング・アーチェリーなどの競技用具=山東省の会社
  • eスポーツのシステム=深圳のテンセント

日本で生まれた空手の試合でさえ、使っている用具の協賛は中国の会社です。

大会のパートナーとして名前が並ぶ63社のうち、中国に本社がある会社は、服の361°と式のダーフェンを入れて7社。

たった1割ほどの会社が、スタッフの服、開会式の舞台と聖火台、会場の大型画面、そして止まれば競技ごと止まる電源と技術運営を受け持っているんです


中国企業を連れてきたのは誰か

なぜ、こんな顔ぶれになったのでしょうか。

アジア大会を主催しているのは、アジアの国と地域のオリンピック委員会が集まったOCAです。

愛知県と名古屋市は開催地に手を挙げ、大会を回す組織委員会をつくりました。

 

そしてOCAには自分で契約しているスポンサーがいて、開催地が変わっても、その会社が大会に入ってきます。

中国の7社のうち、服、式、電源、LED画面、eスポーツの5社は、このOCAのスポンサーとして入ってきた会社でした。

広州大会からの361°も、杭州大会からのダーフェンも、中国で開かれた大会で付いたスポンサーが、そのまま愛知までついてきた形です。

しかも、OCAが連れてきた会社ばかりではありません。

競技用具の山東省の会社と、会場の技術運営の北京の会社は、組織委員会が自分で結んだスポンサー。


台湾の大臣を止めたOCAの指示

開幕前日の2026年9月18日、名古屋港のガーデンふ頭で、各国の選手団を迎える歓迎式典が開かれました。

台湾の選手団と一緒に出席しようとしたのが、スポーツ大臣にあたる運動部長の李洋(リー・ヤン)。

2021年の東京五輪、バドミントン男子ダブルスの金メダリスト。

ところが入口で、組織委員会の係員がOCAからの「指示」だとして、李洋を式典に入れようとしなかったと、台湾の通信社や共同通信が伝えています。

 

出席の申請は、台湾のオリンピック委員会が前もって済ませていたといいます。

台湾の選手団がその場で交渉を続け、李洋は最後に式典へ出られましたが、式典の始まりは遅れています。

台湾の新聞の中国時報によると、OCAの会長は「OCAは李洋氏の入場を許可しなかったが、その根拠を示すことはできなかった。スポーツと政治を混同すべきではないが、われわれはすでにそうしてしまった」と認めたそうです。

組織委員会の現場の担当者が報道陣に話したのは、「OCAとの連絡調整がうまくいかず開催が遅れた」ということだけでした。

台湾がアジア大会に「台湾」の名前で出られず、「チャイニーズタイペイ」という名前で出ているのは、台湾は中国の一部だとする「一つの中国」を掲げた中国の圧力を受けているからだと、毎日新聞も書いています。

止められた李洋は、取材に「われわれは自らの権利を守ることに努めた。いかなる形での圧力も望まない」と答えました。

止めた理由を示せない相手に、台湾の大臣は「圧力」という言葉で答えたわけです。


名古屋で決まったチャイニーズタイペイ

台湾がオリンピックやアジア大会に出るときの呼び名「チャイニーズタイペイ」が決まった場所は、実は名古屋です。

1979年、名古屋で開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の会議で、台湾の扱いをめぐってオリンピックから離れていた中国を戻すかわりに、台湾はチャイニーズタイペイの名前と、国旗とは別の旗で出るという取り決めができました。

いまも「名古屋決議」と呼ばれている取り決めです。

この大会の3か月前の2026年6月21日には、名古屋に駐在する中国の総領事が、中日新聞に名古屋決議のことを書いています。

今度のアジア大会には、台湾がチャイニーズタイペイのチームとして出る予定だ、という中身でした。

 

そして9月26日、岡崎市の野球場で行われた日本と台湾の試合。

入口の貼り紙には、韓国などが国際大会でたびたび問題にしてきた旭日旗と、台湾の旗(中華民国の国旗)が刷られ、日本語と英語と、台湾で使われる繁体字の中国語で「上記の旗は持ち込めません」と書かれていました。

組織委員会は9月28日、「当然、旭日旗は持ち込み禁止の対象ではなく、現場の誤った認識により掲示したもの」とお詫びを出しました。

ところが、同じ紙に刷られていた台湾の旗については、お詫びの中にひと言も出てきません。

台湾の呼び名が決まった名古屋で、47年後、台湾の旗が持ち込み禁止として入口に貼り出されたのです


契約書に判を押したのは組織委員会

「一体どこの国の大会なんだ」という声には、反対の意見もあります。

中国の会社を責めるより、誰が発注して誰が監督していたのかを見るべきだ、という意見です。

韓国の試合で北朝鮮の国歌を流したのも、組織委員会が自分で「現場の担当者が流す音源を誤った人為ミス」と認めた失敗でした。

誰が発注したのかをたどっていけば、服の会社も、式の会社も、映像の会社も、行き着く先はどれも組織委員会。

中国に支配されたというより、大会の顔を中国の会社に渡す判を日本の組織委員会が自分で押していたと知ると、あの違和感にも説明がつきます。

しかし、これで納得する日本人はやっぱり少ないのではないでしょうか。