2026年9月9日の午前11時半ごろ、徳島県上勝町(かみかつちょう)の山あいにある鉄塔で、入社間もない19歳の男性社員が約40メートルから転落死しました。

「今日の雷の点検は終わった」と足場伝いに下りてくる矢先の出来事だったそうで、あとは地上へ戻るだけ、というところ。

新聞やニュースの速報はどれも「ただの転落事故」という扱いでしたが、事故から6日後、「ただの転落ではない」と事態が一変します。

作業用の鞄の奥から小さく三つ折りにされた紙が見つかり、それはまぎれもなく彼自身の文字で書かれた遺書でした。

「あの人からこんな暴言を受けた」という、先輩の具体的な名前とセリフが記されていたそうです。

ご両親が区切った回答の期限は2026年9月18日で、その日に渡されたのは1枚の紙でした

そしてSNSには、「この会社は前からそうだったらしい」という声が広がっています。

根拠として出回っていたのは、事故の1年も前に書かれた社員の口コミでした。


40メートルの鉄塔で外れていた器具

彼はその日、上司と2人で鉄塔に登っています。

作業を一通り済ませて足場から地上へ降りようとした瞬間に落下し、病院へ急いで運ばれたものの、手の施しようがありませんでした。

ニュースを見て「えっ」と目が止まるのが、次の一点。

「安全器具は装着していたはずなのに、なぜか外れていた」という不自然さです

 

高さ2メートル以上の場所で作業するときは墜落制止用器具の使用が義務づけられていて、6.75メートルを超える高さではフルハーネス型でなければいけないと法令で決まっています。

2022年1月からは胴ベルト型が原則使えなくなり、送電線の保守はまさにその対象。

つまり「命綱が体から離れる瞬間は絶対にない」というのが、高所作業の基本ルールなのです。

「なぜ命綱が外れていたのか」という肝心な点に、会社は今も答えていません。


鞄のノートに三つ折りで挟んであった遺書

遺書が見つかったのは彼の普段の持ち物で、いつも持ち歩くノートの隙間に紙片が挟まれていた、と地元メディアは報じています。

警察からご両親へそのコピーが手渡されたのは、事故翌日の2026年9月10日。

【亡くなった19歳の男性社員】

  • 入社は2026年4月。ついこのあいだ社会に出たばかり
  • 研修を終えて実際の高所作業に加わったのは2026年8月から
  • 配属先は四国電力送配電の徳島支社。送電線や鉄塔の保守を担う部署
  • 実戦に出てから、まだたったの1か月あまり
  • その紙には、職場で顔を合わせる先輩の名前が容赦なく書かれていたという

社会に出て半年もたたないうちに、彼は最後の言葉を書いて、そっと鞄に忍ばせていたことになります。

ご両親が報道各社へ提供した遺書は、以下の内容です。先輩社員の名字などは伏せてあります。

これを見てるってことは俺はもう死んでるってことだね。割と短い人生だったな〜。

でも良い家族に恵まれて幸せだったよ。また来世でも母さんと父さんの子供で兄ちゃんの弟で婆ちゃんの孫でありたいな。

俺がおらんくなっても家族で仲良くしてね。●●(兄の愛称)は美容院とおしゃれをしなさい!とまあ前置きはこんなもんにしとこか。

会社からは鉄塔からの墜落って言われてるかな。本当は自分から落ちていった自殺の可能性もあるのにね。もし、俺が自殺なら、その原因があるってことだね。実は誰にも話してなかったんだけどけっこうひどいことされてたんだよね。

●●っていう●●からは「仕事できない」、「頭悪い」「死んどけ」とか言われてたんだよね。

なかなか心に来るよねこんな心無い言葉、それを聞き逃す周りの人も助けない人も最悪だったな。

●●言い方強かったな。「そんなとこで突っ立ってるな」とか何の指示もなく言われたり、自分の望み通りの答えが出るまで問答してくるのもしんどかったな。

飲みの時も未成年で酒が飲めないかわりに食えって言われてアレルギーなのにほぼ強制的に食わされたときは舌はかゆいし吐きそうで心身ともに死にそうだった。

思い返せば八月三日までが幸せで楽しかったな。今更だけど選択を間違えたな。

後悔はいくらだってあったさ。旅行ももっとしたかったし、恋もしかったし、家庭も持ちたかったし、もっと遊びたかったし、みんなとたくさん話したかった。

でも、それを投げ出せるぐらい俺は疲弊(続く文字は不明)

こんな親不孝者で本当にごめん。早く死んでごめん心が弱くてごめん。相談できなくてごめん。一人で抱え込んでごめん。

会社からしたら大事(おおごと)にはしたくないだろうと思うけど俺みたいな人を増やさない為にがんばって欲しい。

改めて二人の子供に生まれて良かった。俺を生んでくれてありがとう。育ててくれてありがとう。弱かった俺を許してください。ごめんね。

●● ●●

(追記)色々金くれると思うけん駐車場の広い家でも買ってや〜、あと仏壇は、絶対買わんといてな。遺灰は、海でよろしく。

出典=ご両親が報道各社へ提供した遺書。全文は徳島新聞デジタル「【全文】転落死した四国電力送配電社員の遺書」、暴言の部分は共同通信「鉄塔転落死の男性、苦悩の遺書 先輩「死んどけ」、四国電送配電」にも掲載されています。


「会社からは墜落って言われてるかな」

この中で、いちばん息が止まる思いがしたのが、この一節です。

「会社からは鉄塔からの墜落って言われてるかな。本当は自分から落ちていった自殺の可能性もあるのにね」

「どうせ事故で片付けられる」と、彼は会社の言い逃れまで先に見通していました。

そして最初の6日間、この悲報は「高所作業の不注意による事故」として淡々と処理されていきます。

「本人の安全器具が外れていた」という、冷たい一行だけを添えられて。

初報のもとになったのは現場を見た記者の取材ではなく警察や消防の発表で、それでも「ただの事故」として処理される現実は、彼の予想どおりだったのです。

もっとも「自ら身を投げたのか」は誰にも決めつけられず、紙片に「〜かもしれない」とあるだけで、捜査側も会社側も最終判断を下していません。

ただ、外から見ていても確実な点が一つあって、「うっかり器具を外した事故」で済ませるにはあまりに無理がある状況だ、ということです。


「仕事できん」「頭悪い」「死んどけ」

先輩から言われたと書かれていた言葉は、この3つでした。

「仕事できん」/「頭悪い」/「死んどけ」。

仕事への愚痴ならまだしも、これは業務指導の域を完全に踏み外しています。

ただ「死んどけ」は、「目の前から消えてくれ」と言っているのと同じです

 

国が示すハラスメントの6つの類型でいえば、こうした暴言は「精神的な攻撃」そのもの。

そして、そのハラスメントを防ぐ措置を取ることは、四国電力送配電のような大企業なら2020年6月から法律の義務になりました。

「昔はこれくらい普通だった」が通る時代は、とっくに終わっています

そして、名前が挙がっていた先輩社員は複数だったと伝えているメディアもあり、もしそうなら「あの先輩と合わなかった」という個人的な問題では到底片付きません。

周囲の同僚も止めに入らない職場だった、ということ。

ただし、第三者にはまだ見えてこない事実もあって、「いつ、どれくらいの頻度で罵倒されたのか」といった詳しい経緯は、まだ明かされていません。

分かっているのは、2026年8月に現場へ出て、9月9日に亡くなったということだけ。

たった1か月あまりのうちに、彼は先輩の名前まで書いた遺書を用意するほど追い詰められていたわけです。


「酒が飲めないかわりに食え」と言われた

書き残されていたのは、暴言だけではありません。

「飲みの時も未成年で酒が飲めないかわりに食えって言われてアレルギーなのにほぼ強制的に食わされた」

お酒は20歳からなので19歳の彼は飲めず、その代わりに「飲めないなら食え」と迫られて、無理やり口へ運ばされた格好です。

そのアレルギーは、口にすれば舌がかゆくなり、吐き気までこみ上げるほどのものでした。

SNSのコメントには、「命に関わる嫌がらせだ」と憤る声も上がっています。

食物アレルギーは「好き嫌い」のわがままではなく、原因物質を取り込めば単なる腹痛にとどまらず、息ができなくなる危険がある症状です。

「ちょっとした体調不良」どころか、あっという間に命に関わる状態にもなる。

アレルギー持ちと知っていて無理強いするのは、言葉の暴力とはまた別の、命の危険を伴う行為です。

断れば仕事に響くかもしれない相手を前にして、「断ったら明日からどうなるか」と怯える、現場に出て1か月あまりの19歳です。


1年前の口コミに残っていた同じ訴え

その口コミが載っているのは、転職を考える人が会社の評判を読みに行くサイトでした。

Yahoo!しごとカタログには四国電力送配電の社員クチコミが59件ならんでいて、そのうちの2件に、こう書かれています。

先輩たちが月に2日休みで働いたこと、パワハラやセクハラがあっても泣き寝入りするしかないこと、事務系と協業意識がなくなっていたこと、どんどん人数不足が深刻であり、ワークライフバランスが崩れると感じたこと(後略)

パワハラ気質の方が多く、若手に嫌みを言ったり、怒鳴ったり、罵倒されることもしばしばあった。同期20人以上がノートの切れ端などに反省文を書かされたことがある。

出典=Yahoo!しごとカタログ「四国電力送配電株式会社の社員クチコミ一覧」。書いたのは設備管理を担当していた20代の新卒社員で、すでに退職しているとのこと。

この2件が投稿されたのは2025年9月30日。事故が起きる、ほぼ1年前です

もう一人、2023年ごろに在籍していた設備管理の社員も、2025年2月の投稿で「入社してからパワハラをかなり受け」と退職の理由を書いていました。

ここに書かれた光景は1年以上前から、これから入社しようとする人が読める場所に置かれていたことになります。

もっとも口コミサイトの投稿は、所属も在籍時期も本人の自己申告で、運営が一つずつ裏を取っているわけではありません。

書かれていることがそのまま会社の姿だ、と言い切ることはできないのです。

それでも背筋が寒くなるのは、遺書に並んでいた言葉と、口コミに並んでいた言葉があまりにも近いからでしょう。

「怒鳴ったり、罵倒される」という書きぶりは、彼が最後に書き残した「仕事できん」「頭悪い」「死んどけ」と、そのまま重なります。


技術系と事務系で真っ二つだった口コミ

ただ、同じサイトが会社に付けている総合評価は、5点満点の3.5。

「ブラック企業」と名指しされるような数字ではありません。

むしろ、こういう投稿のほうが目につきます。

女性は大事にされます。セクハラなどハラスメント行為は私が見る限り全く見な(略)

和気あいあいと仕事ができ、風通しの良い職場となっている。

1本目を書いたのは営業事務の社員、2本目は事務のセンター長で、どちらもまだ在籍中の人たちでした。

ハラスメントを書いていたのは、いずれも設備管理=技術系の20代でした

技術系を辞めていった先ほどの社員は、事務系との溝についても書き残しています。

技術系は雰囲気があまり良くなかった。体育会系の人も多く、今どきの男子のような方は嫌われていた。(中略)加えて、事務系と技術系の仲もよくなく、お互いに悪口を言い合っていた。

亡くなった19歳が配属されていたのは徳島支社で、送電線や鉄塔を守る技術系の部署です。

同じ会社の看板を掲げていても、フロアが違えば見えている景色がまるで違う。

事務系の社員に「そんな職場なんですか」と尋ねれば、悪気なく「うちはそんな会社じゃありません」と返ってくることもあるでしょう。


遺書で名指しされた先輩はどうなるのか

遺書に名前が書いてあるのだから、その人たちはどうなるのか。

「警察に捕まえてほしい」と願っても、言葉の暴力だけで刑事事件にするのは容易ではありません。

侮辱罪には「公然と」という条件があるので、大勢の前での罵倒ならまだしも、二人きりだったとなると立証のハードルが一気に跳ね上がります。

死をそそのかした罪に問うには、「その言葉が引き金になった」という完全な証拠まで求められるでしょう。

先輩社員個人に効くとすれば、それは警察による逮捕ではなく、勤務先が下す懲戒処分のほうです。

そして残された家族が取れる現実的な対抗手段は、会社に対する賠償請求と労災の申請。

労災の審査では直近半年の出来事を洗い出し、「耐えがたい心理的苦痛」があったかを厳しく見定めていきますが、その評価表には2020年からパワーハラスメントの項目が正式に入りました。

「暴言の事実」が認められるかどうかに、すべてがかかっています

 

名前を公開してほしいという気持ちは、まっとうな怒りだと思います。

ただ、ネットで流れる「犯人はこいつだ」という名指しに、確たる証拠は一つもありません。

「本当のことを話して」と迫る矛先は、事実を知る会社側に向けるべきではないでしょうか。

なお、転落したとき一緒に鉄塔へ登っていた上司が、遺書で名前を挙げられた先輩と同じ人なのかどうかは報じられていません。


第三者委員会は技術系の現場まで届くか

四国電力送配電は当初、遺書の内容について「事実関係を調査中」とだけ繰り返していました。

それが2026年9月16日になり、外部の有識者でつくる第三者委員会を立ち上げてパワハラの有無と経緯を調べる、と一歩踏み込みます。

身内だけで調べる形は、ひとまず避けられたことになりました。

ただ、第三者委員会という名前が付いていれば中立、というわけでもありません。

委員を選ぶのも、資料を出すのも、費用を払うのも会社の側だからです。

9月18日の会見で会社は、日本弁護士連合会のガイドラインに沿った体制にすると説明しました。

その委員が誰になるのかは、この日の時点でまだ決まっていません。

時期についても「人選もあって具体的に言える段階ではない」と述べるにとどまりました。

聞き取りの手が技術系の現場まで届かなければ、口コミに残っていた光景は1行も上がってこないまま報告書が仕上がります。

「本当のことを言えば同僚の首が飛ぶ」という場所で口を開くには、話した人を守る仕組みが要るのです。

もう一つ、会社が答えなければいけないこと。

ご両親が会社へ要求書を出したのが2026年9月12日なので、会社はその日には遺書の存在を知らされていました。

それが世間に知られたのは3日後で、そのあいだ会社の側から職場の問題に触れる発表はありません。

あわせて明かされたのは、社内の聞き取りを始めたのが9月16日だったことです。

遺書の内容が報道に出た、その翌日です

「その3日で何をしていたのか」は、調査の結果を待たなくても、いますぐ説明できるはずです。


1週間待って渡された1枚

ご両親が9月12日に出した要求書には、期限が書かれていました。

転落したときの状況と、パワハラの事実関係について、9月18日までに説明すること。

そして迎えた2026年9月18日の午前、徳島支社長がご両親の自宅を訪れ、回答書を手渡しました。

渡されたのは1枚だけで、遺書に書かれたパワハラがあったのかどうかには触れられていません。

書かれていたのは、親会社の四国電力の人事担当者と取引関係のない社外の弁護士とで社内調査を進めていることと、それとは別に第三者委員会を設置することの2つです。

お父さんは報道陣に、「1週間待って、この答えは納得いかない」と話しました。

同じ日の午後1時から、四国電力送配電の常務執行役員が会見に立っています。

「社内調査と第三者委員会による調査を通じて、事実解明と原因究明に全力で取り組む」

ただ、その社内調査の結果は第三者委員会の調査が終わるまで公表しない、という説明も同じ場で出ました。

第三者委員会の調査には数か月かかると見られています

報道各社の取材に、ご両親はこう答えました。

「全てを明らかにして」「うやむやにはさせない」

お母さんは、こうも話しています。

「たった19年しか生きられなかった。当たり前だった毎日が、この一瞬でなくなった」

遺書の終わりには、「親不孝者で本当にごめん。早く死んでごめん。心が弱くてごめん」という言葉が並んでいたと報じられています。

責められる筋合いのない彼が、最後まで「ごめん」と頭を下げ続けているのです。

怒られるのは自分が使えないからだ、と理不尽を自分のせいに変えてしまうところまで来ていたこと自体が、もう追い詰められていた証拠でしょう。

暴言を投げた人が現場からいなくなっても、「これくらい普通だ」と言える空気が残るかぎり、同じことはまた起きます。

その空気があることは1年も前から誰でも読める場所に書かれていて、それを見ずに済ませてきた人が、この会社の中にいたわけです。

亡くなられた19歳の男性社員のご冥福を心からお祈りいたします。