2026年10月21日の昼すぎ、沖縄でシングルマザーとして子育てを始めたばかりのTomiko Wasabiさんが、1枚の雑誌の表紙をXに載せました。

妊活雑誌の表紙で「#パパにしてあげたい」の文字の横にいた男性が、自分の赤ちゃんの父親で、その子から逃げている。

それが、彼女の投稿の中身です。

「自分の仕事は選びましょうね」と書き添えた投稿には、「男の方マジすか」「グロすぎ」という返信が付いていました。

しかも彼女は、同じ日の未明に赤ちゃんの父親に認知を求める調停を、自分からやめたと書いたばかりなんです。

その前日の夜には、妊娠を告げたときに相手へ「認知する、結婚する、認知もしない」の3つを示した、という体験談が広く読まれていました。

この投稿の夫は「結婚するでしょ」と答えたそうですが、Tomikoさんの投稿を読むかぎり、彼女の相手は認知も結婚もしていないことになります。


表紙の男性が父親?

Tomiko Wasabiさんは、沖縄に住んでいるダンサーでラッパーです。

2026年8月の終わりにXで「もうすぐ母になります」「シングルマザーです」と報告し、子どもの父親のことは9月1日に出す新曲『Dear my Baby Daddy』で歌う、と書いていました。

同じ日から始めたYouTubeでも、相手とのいきさつや沖縄での病院選びのことを、隠さずに話し続けています。

 

本人の投稿によると、産むと決めたころに相手の男性へ会う約束を断られ、LINEで強い言葉を返されたこともあったそうです。

そのうえで今回明かしたのが、その父親は妊活雑誌の表紙でパパ役をしていた人だ、ということでした。

彼女の言うとおりなら、表紙では父親になる役を務めた人が、本物の赤ちゃんには会いに来ていないことになります。

「グロすぎ」と返したくなるのも、よく分かる話です。

 

ただ、相手の男性の名前も言い分も、外からは確かめようがありません。

事務所の発表も、新聞やスポーツ紙の報道も出ておらず、いま読めるのはTomikoさん本人の投稿だけです。

表紙には女性タレントも一緒に写っていますが、その人について投稿は一言も触れていません。

父親になるはずの人が姿を見せないまま母親になったという話は、Tomikoさんに限ったことでもないんです。

2021年には、ネイリストの女性が、その5年前に未婚で出産したときのことをこう振り返っていました。

1人で通ったというパパママ教室は、Tomikoさんが載せた妊活雑誌の表紙と、ちょうど正反対の景色です。


認知調停をやめた夜

認知調停の話が最初に出てきたのは、10月2日の未明のこんな投稿でした。

添えられているのは、裁判所のホームページにある「認知調停の申立書」のページです。

認知というのは、結婚していない父と母のあいだに生まれた子を、父親が「自分の子です」と法律の上で認めること。

認知されると、子どもの戸籍の父親の欄に名前が入り、父親に養育費を求めたり、父親の財産を相続したりできる立場になります。

父親が自分で役所に届けを出せば済むのですが、認めないときは、家庭裁判所に子どもの側から調停を申し立てないと先へ進みません。

赤ちゃんの代わりに書類を出すのは、母親です。

 

「震えて待て!」と書いてから、19日後。

そして10月21日の未明、Tomikoさんはこう書きました。

「触らぬ神に祟り無し」は、関わらなければ悪いことも起きない、という意味のことわざ。

Tomikoさんの母親はそう言ったうえで、相手を追い詰めすぎないように、子どもに親のけんかを見せないように、とも話したそうです。

同じ21日の午後、表紙の投稿の数分前には、別の投稿でもう1つ理由が書き足されています。

相手への気持ちより先に、孫に笑いかける自分の母親の顔があったんです。

そしてもう1つ、未明の投稿には「養育費は私の年収にカウントされる」という一文がありました。

子どものために父親から受け取るお金が、なぜ母親の年収に数えられるのか。


養育費で手当が減る仕組み

ひとり親の家計を支える国の手当に、児童扶養手当があります。

離婚した家庭だけでなく、結婚せずに子どもを産んだ母親も受け取れるものです。

子ども1人なら全部もらえて月48,050円で、稼ぎが増えるほど少しずつ減っていきます。

 

この手当の計算では、父親から受け取った養育費の8割が、母親の所得に足される決まりです。

児童扶養手当法の施行令(国が決めた細かいルール)に、はっきりそう書かれています。

ひとり親の側からは、以前からこんな声が上がっていました。

だから、養育費を受け取れるようになると、そのぶん手当の額が下がったり、止まったりすることがある、というわけです。

Tomikoさんの「年収にカウントされる」は、この決まりのことを言っているのでしょう。

時間をかけて相手から引き出したお金の一部が、手当の減額という形で差し引かれる。

そこまで計算したうえで手を引いた彼女の判断には、うなずける部分があります。

 

しかも、結婚しないまま母親になった家庭で、養育費を実際に受け取れている人はほんのひと握りです。

国の2021年度の調査では、未婚の母の家庭のうち養育費の取り決めをしていたのは13.6%で、調査の時点で受け取れていたのは8.4%でした。

離婚した家庭でも受け取れているのは3割ほどですから、その中でもさらに低い数字です。

 

いっぽうで、今年から養育費を求めやすくなったこともあります。

2026年4月1日から、取り決めがなくても子ども1人あたり月2万円を相手に請求できる「法定養育費」が始まりました。

裁判所の案内には、離婚だけでなく、4月1日以降に父親が認知した場合にも当てはまると書かれています。

つまり、もし将来もう一度認知を求めて、それが成り立てば、この仕組みも使えるということです。


子どもの権利は消えない

では、調停をやめたことで、この先の道が閉ざされたのかというと、そんなことはありません。

認知を求める権利は、もともと母親のものというより、子ども本人のものです。

最高裁は1962年の判決で、子どもが父親に認知を求める権利は、放棄することができないと判断しました。

長いあいだ使わなかったからといって消えてなくなるものでもない、というのが判決の考え方。

 

父親が生きているあいだなら、子どもが小さいうちはTomikoさんが母親として、いつでもまた申し立てられます。

相手が話し合いに応じなくても、最後は「認知の訴え」という裁判に進むことができ、親子かどうかは鑑定で確かめる場合もあるそうです。

子どもが大きくなれば、本人が決める道もある。

そして認知が成り立てば、親子の関係は生まれた日にさかのぼって始まったものとして扱われます。

Tomikoさんが今回やめたのは相手を追いかけることで、子どもの権利は1つも減っていない。

未明の投稿の最後にある「気が変わったらお金用意して子供に会いに来てください」も、そう思って読むと、戸を閉めた言葉には聞こえません。

 

それにしても、ここまでの話で動いていたのは、ずっとTomikoさんでした。

申立書を調べ、自分の母親の気持ちを考え、手当の計算までしてから、やめると決めています。

でも、相手の男性が認知に応じたという話は、彼女の投稿のどこにも出てきません。

父親を法律の上で決めるのに、動かなければ何も始まらないのがいつも母親の側だけ、という今の作りは、どこかおかしいと感じてしまいますね。