2026年9月3日、日本テレビのプロデューサーを実名で告発する動画が、Xに投稿されました。

告発しているのは、元欅坂46の人気メンバーだとされています。

自分が持っている番組枠と引き換えに、関係を求められた。

そういう告発です。

 

返信欄にいちばん多く並んだのは、気持ち悪い、という短い言葉でした。

50代の大人が10代の子に、と書いている人もいます。

 

ただ、その気持ちを口に出すと、すぐに別の言葉が返ってきます。

アイドル側も受け入れてたなら、win-winでしょ、と。

 

言い返したいのに、うまく形になりません。

その理由は、たぶん「枕営業」という言葉のほうにあります。


2分の動画から始まった話

発端は、暴露を専門にしているアカウントの投稿でした。

2026年9月3日の午前中に出たものです。

本文はこれだけ。

あとは2分ほどの動画が付いているだけでした。

画面に大きく出ていたのは「欅坂46メンバー本人より『枕営業』について告発をします」の一行。

 

名指しされているのは、日本テレビでアイドル番組を長く担当してきたプロデューサーです。

この人が『KEYABINGO!』のコンテンツプロデューサーだったことは、公式の資料でも確かめられます。

欅坂46の冠番組で、2016年から放送されていたものですね。

 

つまり、当時のメンバーと実際に近い場所にいた人ではあります。

そこは、誰が調べても同じ答えになる部分なのです。


告発の中身は「番組枠と引き換えに」だった

動画で語られている中身を、いちばん短くまとめている投稿がありました。

読み飛ばしそうになりますが、二つ目と三つ目が重い行です。

 

番組枠と引き換えに、と言っています。

断ったら出られなくなる、ということです。

そして、周りにいた5人に聞いたら5人とも知っていた、とも言っています。

この2行が本当だとすると、一人が黙っていれば済む話ではなかったことになります。

知っている人が何人もいて、それでも表に出てこなかった。

 

もうひとつ、事務所は関与していない、とわざわざ言い足しているところも目を引きます。

グループを守りにいっている言い方です。

告発した側が、いまも古巣のことを気にしているのが、この一行から伝わってきます。


いま確かなことと、まだ出ていないこと

ここからは、初めてこの話を見た人のために整理しておきますね。

丁寧に調べて並べていた投稿があったので、そのまま置きます。

確かめられているのは、この人がその番組の担当だったという一点だけです。

告発した人の名前も顔も、まだ出ていないままです。

日本テレビも本人も、告発から一日たった時点で何も出していません。

 

もうひとつ、動画そのものについて書いておきます。

あの2分の映像に出ているのは、告発した本人ではありません。

別の人が、代わりに読み上げる形で作られたものです。

 

だから返信欄には「で、結局なにがあったの」という声も並んでいました。

顔も声も本人のものではないので、受け取る側の手応えが薄くなるのは当然だと思います。

 

ここで「だから決めつけてはいけません」と書く記事が、これから何本も出てくるはずです。

ただ、私はその書き方はしません。

 

名前が出ていないのは、告発した側の落ち度ではないからです。

相手は番組を持っている側で、こちらは番組に出してもらう側でした。

顔を出して名乗った瞬間に、失うものの量が違いすぎます。

 

証拠が出ていないことと、話が嘘であることは、まったく別のものです。

その二つを同じ扱いにしてきたから、この手の話はずっと表に出てこなかったわけですからね。


「枕営業」という言葉が向きを逆さまにしている

ここからが、この記事でいちばん書きたかったところです。

今回の件を、報道もSNSも「枕営業」と呼んでいます。

けれど、この言葉はもともと、そういう意味ではありませんでした。

営業、という二文字が入っています。

営業とは、売り込む側がする行為。

頼む側、お願いする側の言葉です。

つまり「枕営業」と言った時点で、持ちかけたのは女の子のほうだ、と書いていることになります。

 

ところが今回告発されている中身は、枠を持っている側が、その枠と引き換えに、と下へ持ちかけたという話でした。

売り込みではなく、上から下への要求でしょう。

 

それなのに、貼られた見出しは全部「枕営業」。

言葉のほうが、やったのはどっちなのかを勝手にひっくり返しているわけです。

 

私はここに、この件のいちばんの気持ち悪さがあると思っています。

やった側の行為に、やられた側の名前が付いている。

そういう言葉を、私たちは何十年も使ってきたわけです。


「アイドル側も同罪」が自動的に出てくる理由

返信欄には、こういう声も並んでいました。

アイドル側も受け入れてたなら、そっちも非難されないと。

売れてるアイドルは枕だってことだよね、実力社会じゃないんだ。

 

読んでいて、うっとなった方も多いと思いますが、こういう声が出てくること自体は、たぶん不思議ではないのです。

見出しに「営業」と書いてあるからです。

営業と書いてあるものを読めば、営業した人がいる、と読みます。

言葉が先にそう言っているので、読んだ側は自然にそこへ行き着きます。

だから、そう書いた人を責めても、この話は前に進みません。

直すべきなのは、言葉のほうです。

 

そのうえで、ひとつだけ書いておきたいことがあります。

受け入れた、という言い方が成り立つのは、断っても何も失わずに済む場合だけではないでしょうか。

 

断ったら番組から消える。

消えた理由は誰にも説明されない。

説明されないから、本人も「実力が足りなかった」と思い込む。

 

この三つが揃っている場所に、選んだ、という言葉は使えません。

選択肢が一つしかないものを、選択とは呼ばないからです。


「断ったら干される」は法律に書いてあります

ここまでは、言葉の話でした。

ここからは、法律の話をさせてください。

 

2023年7月13日、刑法が変わっています。

強制性交等罪という名前が消えて、不同意性交等罪になった日です。

 

名前が変わっただけの改正だと思っている人が多いのですが、中身はずいぶん違います。

それまでは、暴行か脅迫がなければ罪に問いにくい作りでした。

殴られたか、脅されたか。

そこが無いと、同意はあったことにされてしまう。

改正ではそこを外して、同意しない意思を持つことや、それを口に出すことが難しい状態、という言い方へ変えました。

そして、その状態を作る原因を8つ並べています。

 

8つ目が、これです。

経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること

 

固い言い方ですが、法務省の説明を読むと難しい話ではありません。

社会的関係というのは、家庭や会社や学校といった、ふだんの生活の中の関係のこと。

不利益を憂慮というのは、自分や家族に不利益が及ぶことを不安に思うことです。

例として挙げられているのは、祖父母と孫、上司と部下、教師と生徒でした。

つまり、こういうことになります。

殴らなくていい。

脅さなくていい。

断ったらこの人は仕事を失う、と分かっている立場の人が、その立場のまま持ちかける。

それだけで、罪に問われる条件のほうは満たしてしまいます。

 

番組枠を持っている人と、その枠に出たい人。

この2つのあいだにあるものが何なのかは、もう法律の側が書いているわけですね。

 

これが2023年の話だというところが、私にはいちばん引っかかります。

条文が変わってから3年たっても、告発は暴露アカウントからしか出てきていないのですから。


秋元康の名前が出てこないのはなぜか

返信欄でいちばん多く付いた疑問が、これでした。

なぜ秋元康の名前は出ないんだろう、と。

知っていたのか、知らなかったのか。

そこがいちばん重要だ、と書いている人もいます。

 

まず、名指しされているのは番組を作る側の人です。

グループを作った側ではありません。

ただ、その2つは切り離せないでしょう、と見ている人もいました。

この人はいま乃木坂46の番組も担当しているので、そちらの名前で書かれています。

担当している番組のほとんどが、秋元康さんの企画だという指摘です。

枠を持っている人の上に、その枠を作っている人がいる。

 

それでも名前が出てこない理由は、たぶん2つあります。

ひとつは立場。

秋元康さんは作詞と総合プロデュースをする人で、事務所を経営している人ではありません。

もうひとつは会社の形です。

グループの運営会社は、時期ごと・グループごとに分かれています。

 

2023年に旧ジャニーズ事務所で起きたことを思い出すと、この違いがはっきりします。

あのときは、一人の名前と、一つの会社がありました。

だから会見を開いて謝ることができたし、補償の窓口も作れたわけです。

2024年7月の時点で、申告した人は1001人、補償金が支払われたのは466人と報じられています。

 

数の多さも重いのですが、私が大事だと思うのはそこではありません。

誰に言えばいいかが決まっていた、ということのほうです。

 

今回はそこが決まっていません。

局に言うのか、運営会社に言うのか、グループを作った人に言うのか。

言う先が決まっていない場所では、声はいちばん弱いところで止まります。

 

そして止まったその先に、「枕営業」という言葉が置いてあるわけですね。

行き場をなくした怒りを、いちばん弱い側へ返してしまう言葉。

この言い方がなぜ何十年も生き延びてきたのかが、ここでようやく分かった気がします。


同じ日に「名前は出さない」と言った人がいた

返信欄でもうひとつ多かったのが、氷山の一角だろう、という声でした。

どんどんめくれろ、という声もありました。

 

実際、同じころに、歌手の叶望立夏さんが自分の身に起きたことを書いています。

テレビ関係の打ち合わせは、これから全部オンラインにする。

2026年8月31日に、そう決めたそうです。

過去に数十回迫られたと明かしたうえで、それでも相手の名前は出さない、というのです。

実名を教えろというコメントやDMが、この人のところへ300件以上も届いたそうです。

それでも出さない。

戦うときは水面下で法的にやる、というのが理由でした。

 

この判断を、逃げだと読む人もいると思います。

けれど私は、名前を出した瞬間に自分が加害者側の席へ回されることを、この人はもう知っているのだと読みました。

 

名前を出せば、証明しろと言われます。

証明できなければ、嘘つき呼ばわり。

訴えられるのは、告発した側のほう。

そういう順番になっているのです。

あの動画を出したアカウントの、創設者を名乗る人の投稿です。

情報を出した人が訴えられたら、弁護士費用も賠償金も全部こちらが持つ、と書いています。

 

軽い言い方だと感じる人もいると思います。

ただ、訴えられるのが怖くて言えない、というその一点にだけ、お金で答えているのは確かです。

本来それは、会社か業界の団体がやる仕事のはずですよね。

 

氷山の一角なのは、たぶんそのとおりなのでしょう。

ただ、めくれないのは、言った人のほうが先に沈む仕組みになっているからです。


5年前にも、同じことがありました

今回の話が最初に出てきたのは、新聞でもテレビでも週刊誌でもありませんでした。

暴露を専門にしているアカウントです。

真偽不明と書き添えられたまま、この動画は一日で1000万回以上見られました。

 

これを無責任な拡散だと言うのは簡単です。

ただ、こういう形になったのは今回が初めてではありません。

 

2021年4月4日の夜、タレントのマリエさんがインスタグラムで告発をしています。

18歳のころ、枕を持ちかけられた、と。

一週間後にも「打ち上げでの出来事でした。私は嘘をつきません」と書いていました。

名前を挙げられた側の事務所は、そのような事実はないと否定しています。

そのあと、どうなったか。

テレビでこの話が正面から扱われることは、ありませんでした。

 

告発そのものは、あのときちゃんと表に出ていたのです。

出たあとに、受け止める場所が無かっただけで。

局の中に相談窓口がなかったわけではないはずです。

業界の団体だってあります。

それでも、そこを通って表に出た話は一件もなし。

 

表の窓口が動いていれば、暴露アカウントは要りませんでした。

使われているということは、そちらが動いていないということですよね。

 

2023年には、何十年も業界の中で知られていた話が、国内ではなく海外の報道から動いたこともありました。

知っていた人は、あのときも一人ではなかったはずです。

 

5人に聞いたら5人が知っていた、という今回の証言も、それと同じ形をしています。

知られていなかったわけではありません。

知らないことにされていただけです。


これは営業ではなく、要求です

この件で、いま確かなことは多くありません。

告発した人が誰なのかも、語られている内容が本当なのかも、いまはまだ外からは見えないままです。

日本テレビと名指しされた本人が何を言うのかも、これからでしょう。

 

それでも、はっきりしていることが一つあります。

この件を「枕営業」と呼ぶのは、間違いだということです。

 

営業をしたのは誰なのか。

枠を持っていたのは誰なのか。

断れる立場にいたのは誰なのか。

 

その三つを並べれば、答えは一つしか出てきません。

これは営業ではなく、要求です。

 

そしてこれは、私が考えた言い分ではありません。

2023年に、法律のほうが先にそう書いていました。

返信欄で気持ち悪いと書いた人は、たぶん何も間違えていませんでした。

言い方が雑だったのではなく、向きを取り違えた言葉のほうに引きずられただけです。

 

引きずられるから、話はいつも「どっちもどっち」のところまで戻されて、戻された人がまた黙ります。

 

だから私は、この件を枕営業とは呼びません。

呼び方をひとつ変えるだけで、次に誰かが口を開くときの重さは、たぶん少し軽くなります。

そこから先は、あなたがどう呼ぶかですよね。