2026年10月14日、詐欺撲滅を掲げてきたYouTuber「新宿109 KENZO」が、京都府警に名誉毀損の疑いで逮捕されました。

同じ日に逮捕されたのは、KENZO本人だけではありませんでした。

岡山市の会社役員2人も、恐喝未遂の疑いで捕まっています。

動画で「詐欺師」と呼ばれた京都の不動産会社の元代表の男性に、「30億じゃ。借用書書け」と迫ったとされ、お金を脅し取ろうとした疑いです。

男性は動画が出た翌月に亡くなり、遺族はKENZOと岡山の2人を相手に裁判を起こしました。

ネットではいまも、悪質なマルチ商法に突撃してきたこれまでの活動を評価する人がたくさんいます。

 

ただ、今回KENZOに男性の話を持ちこんだのは、だまされた被害者ではなく、男性とお金で揉めていた取引の相手だったと、その会社自身が書いていました。

逮捕されたのは「詐欺師」と呼んだ側

京都府警がこの日に逮捕したのは、次の3人です。

  • KENZO=名誉毀損の疑い
  • 岡山市の不動産会社の役員(46歳)=恐喝未遂の疑い
  • 同じく岡山市の会社役員(35歳)=恐喝未遂の疑い

動画のなかで「詐欺師」と名指しされた男性のほうは、詐欺の疑いで逮捕されたという報道は、これまでのところ見当たりません。

調べに対してKENZOは「弁護士と話してから話す」と答えたきりで、容疑を認めるのかどうかは、まだ分からないまま。

新宿109 KENZOのプロフィールと経歴

新宿109 KENZOのYouTubeチャンネルのアイコン
引用元:KENZO 【新宿109】 YouTubeチャンネル
  • 活動名=KENZO(新宿109)
  • 本名=池田実貴(報道による)
  • 年齢=28歳(2026年10月の逮捕時)
  • YouTube=登録者103万人
  • 著書=『突撃!新宿109 詐欺・悪徳マルチ撲滅活動日記』(彩図社)
  • 会社=株式会社KENZO探偵事務所(2025年3月に法人登記)

KENZOのチャンネルの紹介文には、悪質なマルチ商法の組織や詐欺師に突撃して糾弾している、と自分の活動がそのまま書かれています。

若いころに自分もマルチ商法で、初めて会った相手に60万円もの大金を預けてしまったことがあり、その苦い経験を著書のなかで明かしています。

被害者からの情報をもとにセミナー会場や事務所へ乗り込み、カメラの前で相手を問い詰めるスタイルで知られていました。

だまされてお金を取られた人にとっては、警察も弁護士も動いてくれないなかで、代わりに相手の顔を世間にさらしてくれる味方に見えていたのです。

 

2023年11月には、Xで「元々逮捕覚悟で詐欺撲滅活動してた」と書き込んでいたことも報じられました。

ただ、覚悟していた逮捕と、今回の逮捕は中身が違います。

問われているのは、どこかへ乗り込んだことではなく、動画のなかで男性を何と呼んだかだからです。

2025年3月の雑誌のインタビューでは、撮影のために法律や判例を学び、正義のヒーローに見えすぎないよう、相手の言い分も聞いて正義を押しつけないよう心がけている、と語っていたとFLASHは伝えています。

ただ、どれだけ相手の言い分を聞くと決めていても、突撃する相手が本当に詐欺師かどうかを、KENZOは情報を持ちこんだ人の話から判断するしかありません。

 

そのKENZOは2025年7月14日、YouTubeで探偵事務所を始めたと発表しました。

半月で230件もの被害相談が寄せられ、動画の取材だけでは受けきれなくなったというのが理由で、浮気の調査や人探しに加えて、会社向けに取引先の調査まで請け負うと説明しています。

「30億じゃ。借用書書け」の中身

そもそもの始まりは、男性と岡山の会社のあいだの、お金をめぐる揉めごと。

男性は2023年、自分が経営していた不動産会社の株式を岡山の会社側へ譲りました。

遺族によると、そのあと男性と岡山の会社側とで意見が食い違い、関係が悪くなっていったといいます。

母親は、2025年の春ごろから男性が理由もなく「騙された」と責められるようになり、「自分が言えば警察が動く」「刑務所に入れるぞ」とまで脅されていた、と話しています。

 

警察の発表によると、岡山の2人が男性を脅したとされるのは2025年5月、まだ動画が出る前のことでした。

2人は男性を追及する動画を投稿すると本人に伝えたうえで、次のような言葉で現金を出させようとした疑いが持たれています。

  • 「おめえの生きるも死ぬも全部俺のさじ加減じゃ」
  • 「30億じゃ。借用書書け」

遺族の代理人が提供した音声にも、この「生きるも死ぬも」という言葉が残っていました。

46歳の役員は調べに対し「言ったことは間違いないが、お金を取る目的ではなかった」と話していて、35歳の役員は「弁護士と話してから、言うかどうかを決める」と答えを保留しています。

 

岡山の2人が迫ったとされるのは、男性が30億円の借金を背負ったことにする紙を書け、という言葉でした。

脅しの翌月に出た「詐欺師です」動画

5月の要求から1か月ほどたった2025年6月14日ごろ、KENZOのチャンネルに男性を取りあげた動画が上がりました。

題名は「巨額な資金を略奪した特別背任容疑の会社役員に突撃してみた!」でした。

男性の画像には、次のような文字が重ねられていたと報じられています。

  • 「僕の職業は、詐欺師です」
  • 「有名実業家の裏の顔。巨額M&A詐欺師か」
  • 「被害総額20億円以上」
  • 「京都の寄生虫との呼び声も⁉」

なかでも「僕の職業は、詐欺師です」は、男性の画像に一人称で重ねられていて、見る人には男性本人がそう名乗ったかのように映ります。

ところが、「生きるも死ぬも」の言葉が残っていた音声には、2026年10月16日にTBSのnews23が伝えたところでは、この言葉を男性に言わせようとするやりとりまで入っていました。

  • 「『僕の職業は詐欺師です』って言ってみ。言えよ、さっさと」
  • 「『僕の職業は詐欺師です』って今すぐ言え」

テロップの一人称は、男性が自分から名乗った言葉ではなく、脅されて口にさせられた言葉だったのかもしれません。

「M&A」は会社の売り買いのことで、男性が会社を岡山の会社側へ売った、その取引をめぐって、動画は男性を「詐欺師」と呼んでいたことになります。

「京都の寄生虫との呼び声も⁉」のほうは、誰がそう呼んでいるのかを書かないまま、言葉だけを男性にかぶせる書き方でした。

動画のなかでKENZOは「組織ぐるみの犯行だ」とも話していたとされます。

NHKのニュース映像によると、この動画は株式の譲渡をめぐる話し合いの場面を撮ったものでした。

その話し合いは、46歳の役員が男性を呼び出した場だったと朝日新聞は伝えています。

遺族側は、その話し合いの最中にKENZOが突然あらわれ、男性に断りなく撮影を始めたと話していて、動画には男性が土下座をする姿まで映っていたそうです。

FLASHによると、動画は会社を譲り受けた側の主張をもとに、元代表らを問い詰める内容だったとされます。

遺族側は、その話し合いの場面が、まるで「男性が詐欺を働いた」かのように編集されて公開された、と訴えています。

 

そして動画が出た9日後の2025年6月23日、岡山の会社は自社のサイトに、KENZOの動画に触れた声明を出しました。

そこには、名前こそ出していないものの「元役員を含む一部関係者による横領行為が発覚した」との一文。

さらに同じ声明のなかで、KENZOに「正確な情報を提供」したこと、その結果として動画が公開されたことまで、動画のURLつきで自ら書いていたのです。

 

京都新聞は、KENZOが岡山の会社の依頼で動画を配信していたとみられる、と報じています。

遺族が起こした裁判の訴状では、46歳の役員が「ゆすりの手段」として動画の作成や投稿をKENZOに指示した、とまで書かれているのです。

KENZOは利用されたのか加担したのか

KENZOは岡山の2人に利用されただけなのか、それとも脅しの一部を担っていたのか。

「利用されただけ」と見る人たちは、KENZOの逮捕容疑が名誉毀損だけで、恐喝未遂の疑いはかけられていないことを、いちばんの理由に挙げています。

相手の言い分も聞く、と語っていたKENZOですが、遺族側は〈話し合いの場に突然来て、断りなく撮った〉と訴えていて、男性の側の話をどこまで聞いていたのかは、報道では分かっていません。

 

一方で「加担していた」と見る人は、脅しの文句にKENZOの動画が使われていた点を挙げます。

関西テレビが伝えた警察などの説明によると、話し合いの場で撮られた動画は、5月の時点でもう〈投稿するぞ〉の切り札になっていて、翌月、そのとおりにKENZOのチャンネルで公開されました。

 

3つ目は、お金で頼まれた仕事だったのではないか、という見方です。

ネットには、KENZOと岡山の役員のやりとりだとする画像や、報酬を受け取っていたのではないかという投稿まで出回っていますが、報道で確かめられたものはまだありません。

探偵事務所は、会社としては動画より前の2025年3月に登記され、動画の翌月の7月に発表されています。

ただ、今回の動画がその仕事として受けたものだったかどうかは、報道では分かっていません。

 

そして、20億円と30億円のずれが残ります。

動画のテロップが掲げていたのは「被害総額20億円以上」なのに、岡山の2人が「借用書書け」と迫ったとされる金額は30億円でした。

会社側が言う横領の被害を取り戻すための話だったとしても、動画が掲げた被害額より10億円多いんです。

考えられる読み方は、次の2つです。

  • 動画の20億円とは別に、会社側が見積もった損害があった
  • 取り戻すことより、30億円の借用書で男性を縛ること自体に意味があった

どちらなのかを決める材料はまだ報じられていませんが、2つ目の読み方なら、「借用書書け」という言葉とも、「お金を取る目的ではなかった」という説明とも、筋が通ってしまいます。

動画の翌月に男性は亡くなった

男性は生前、会社の売買をめぐるトラブルを京都府警に相談していました。

遺族によると、会社には取引先が手を引くなどの影響が出て、経営が傾き、男性自身も追いつめられていったといいます。

関西テレビが報じた、亡くなる直前の映像で、男性は「あの一件で犯罪者認定みたいなのがされちゃったわけですよ」「社会全員が一気に敵に回っちゃうんですよ」と話し、こうした晒し上げの動画について「僕の件をもって、それやめた方がいいと思います」と訴えています。

「犯罪者認定」は、裁判でも警察でもなく、動画を見た人たちの手で〈犯罪者〉が決められてしまったことを指す言葉でした。

男性は2025年7月、まだ36歳で亡くなりました。

警察は死因を明らかにしていませんが、遺族は、男性が自ら命を絶ったと説明しています。

そのあとKENZOの動画は削除され、いまは見ることができません。

 

2025年11月、男性の母親がKENZOを名誉毀損の疑いで京都府警に告訴(処罰を求めて訴えること)し、それから1年近くたって、今回の逮捕に至っています。

ひとりで抱えきれない悩みがあるときは、電話で話を聞いてもらえる窓口があります。

  • いのちの電話 0120-783-556(毎日16時〜21時・毎月10日は8時〜翌8時)
  • こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556

「詐欺をしていたなら」という声

このニュースには、いまも「本当に詐欺をしていたなら、さらされても仕方ない」「問題は男性が詐欺師だったかどうかだ」と書きこむ人が少なくありません。

動画には「被害総額20億円以上」という具体的な数字まで並んでいて、マルチ商法の現場に何度も乗り込んできたKENZOが言うのなら本当なのだろう、と受け取ってしまいますよね。

けれど、「横領があった」というのは岡山の会社側の言い分で、その会社の役員が、男性への恐喝未遂の疑いで逮捕されています。

 

それに名誉毀損は、たとえ言ったことが本当でも成り立つ罪で、罪に問われないのは、世の中のための話を、裏づけをとって出したときに限られます。

今回、その裏づけにあたる話を持ってきたのは、男性とお金で揉めていた取引の相手でした。

母親の提訴と「息子で最後に」

逮捕の翌日、3人は京都地検に送られました。

同じ日、男性の母親は、KENZOと岡山の2人を相手に、あわせて約2億3000万円の損害賠償を求める裁判を京都地裁に起こしています。

そのあとの記者会見で母親は、詳しい事情も知らない人たちから好き勝手に言われ、息子が誹謗中傷されたことが母親として本当に悔しかった、と語りました。

会見では「命失うのは息子で最後に」と訴え、「私は本当は生きていてほしかった」とも話しています。

TBSの取材には、動画がなければ息子はまだ生きていたかもしれない、と涙ながらに語り、画面を見て面白がって笑う人には、自分が同じ立場だったらどう思うかを考えてほしい、と呼びかけました。

そのうえで、誰が息子を追い詰めたのかを明らかにして、息子の名誉を取り戻したい、と続けました。

 

被害者の味方に見えていたKENZOの動画が、男性と揉めていた取引の相手の側の道具になっていたのだとすれば、それはもう誰の味方でもなかったということなのかもしれませんね。