ニュースの見出しに、肩書きが並びすぎていました。

元インターハイの競泳選手。

ラウンドガール。

ミスコンのファイナリスト。

そして、セクシー女優。

2026年8月25日、これだけの経歴を持つ27歳の女性が、コカインを所持していた疑いで逮捕されたと報じられました。

一緒に捕まったのは、六代目山口組系暴力団の幹部で、しかもトクリュウのトップとみられている32歳の男です。

さらに報道をたどっていくと、『ルパン3世』という名前まで出てきます。

どこでどうつながれば、こんな組み合わせになるのか。

今回は、この事件で本当は何が起きていたのかを、順番にわかりやすく解説していきたいと思います。



警察が踏み込んだ理由は薬物ではない

逮捕されたのは、「新セリナ」の名前で俳優として活動していた阿部星架容疑者(27)と、六代目山口組系暴力団の幹部だという菅原翔太容疑者(32)です。

2人は今年7月14日の午前2時すぎ、東京・豊島区のホテルの一室でコカインおよそ0.7グラムを所持し、都内で使用した疑いが持たれているとのこと。

ここまでなら、よくある薬物事件の並びに見えます。

ところが、この事件には引っかかるところがありました。

警察がそのホテルへ入ったのは、薬物の捜査ではなかったんです。

 

もともと警察が追いかけていたのは、菅原容疑者の特殊詐欺の事件でした。

その捜査を進めるなかで、菅原容疑者が豊島区のホテルへ頻繁に出入りしていることがわかってきたと報じられています。

そこで詐欺の容疑で身柄を確保しようと部屋へ入ったところ、ベッドの上に菅原容疑者と阿部容疑者の2人がいたそうです。

そのとき、シーツの中やベッドの棚から、コカインの入った袋が見つかったと伝えられています。

つまりこの薬物事件は、詐欺を追いかけていた捜査の網に、あとから引っかかったというわけです。

この件の第一報は、8月25日の夜に日テレNEWSが伝えたものでした。

見出しは「俳優とトクリュウのトップが薬物所持疑い ホテルのベッドに使用済みコカインの袋」。

逮捕された2人の名前は、見出しに入っていません。

 

押収されたコカインは、およそ0.7グラム。

2人は知人の関係で、以前から繰り返しこのホテルで会っていたとみられています。

調べに対して、菅原容疑者はコカインの使用について「間違いありません」と認めているとのこと。

一方の阿部容疑者のほうは「使っていません」と否認を続けていると報じられました。

同じ部屋にいた2人の言い分が、逮捕の時点でもう割れています。

ここは、これからの捜査を待つしかないところです。

 

それにしても引っかかるのは、この事件が「芸能人の薬物事件」という顔で世の中に出てきたこと。

見出しに並んだのは、元競泳選手という肩書きと、セクシー女優という肩書きでした。

けれど捜査の入口にあったのは、まったく別の事件です。

本気で追いかけられていたのは、詐欺のほうでした。

ホテルの一室と聞くと、どうしても男女の話のほうへ想像が向く。

でも、そのドアを開けたのは、詐欺事件の捜査員でした。



水泳をやめたあとに変えた4つの名前

阿部星架容疑者がどんな人だったのか、公表されている経歴をたどってみましょう。

1998年生まれの27歳で、北海道小樽市の出身。

3歳から水泳を始めて、小学生のころはアーティスティックスイミングに取り組み、ジュニアオリンピックにも出場していたと紹介されています。

中学で競泳へ転向してからは、背泳ぎが専門でした。

札幌大谷高校の時代には、インターハイの100メートル背泳ぎで6位、国民体育大会では5位という成績が残っています。

高校を出たあとの進路は、山梨学院大学の水泳部。

 

つまり、ネットで驚かれていた「インターハイ出場」は、本当の話でした。

しかも出ただけではなく、全国で6位です。

これがどれだけの積み重ねの上にある数字か、すぐにわかります。

3歳から始めて、およそ20年。

プールの水の匂いのなかで、人生のほとんどを過ごしてきた人です。

そこまで積み上げたものを怪我で手放すのは、想像するだけでしんどいですね。

 

その競技生活は、2020年ごろに終わったと伝えられています。

理由は怪我でした。

そして翌2021年の7月、22歳でセクシー女優としてデビューしています。

「やらない後悔よりやって後悔」という気持ちからだったと紹介されていました。

元アスリートという背景は注目を集めて、競泳水着を使った作品を中心に活動していたそうです。

 

ここからが、少し気になるところ。

デビューしたときの名前は「青木桃」でした。

2022年に「朝日芹奈」へ改名。

2024年3月には「堤セリナ」へ変えて、所属事務所も移っています。

そして2025年4月、また事務所を移って「新セリナ」になりました。

海外向けの作品では、さらに別の名前も使っていたそうです。

デビューから5年で、名前は4つ目になっていました。

 

この世界で改名そのものは珍しくないと言われます。

事務所が変われば名前も変わる、という事情もあるそうです。

ですから、名前が変わったこと自体を責めるつもりはありません。

ただ、プールをやめてからの5年で、この人は4つの名前を持ちました。



80代男性から奪われた50万円

もう一方の菅原翔太容疑者についても、報じられている分を並べておきます。

32歳で、住まいは東京都板橋区。

六代目山口組の系列にある「落合金町連合」の傘下組員で、幹部級と位置づけられているとのこと。

そして警察は、この人物を匿名・流動型犯罪グループ、いわゆるトクリュウのトップとみています。

 

菅原容疑者は今回の薬物事件より前に、すでに2つの事件で逮捕されていました。

1つは特殊詐欺です。

今年7月、埼玉県越谷市に住む80代の男性から、現金50万円とキャッシュカード1枚、通帳1通をだまし取ったとされる事件でした。

手口は、息子を装った電話です。

「会社の重要書類の郵送先を間違えた」。

「弁償しなければ契約がパーになる」。

そう言って、80代の親を追い込んでいったと伝えられています。

 

電話の向こうで息子が困っていると言われて、そのまま切れる親はいません。

しかもこの手口は、だまされる側を「助ける側」に立たせます。

お金を取られているという感覚より先に、子どもの役に立ちたい気持ちが動いてしまう。

だから被害に気づくのが遅れて、気づいたあとも家族に言い出しにくくなります。

お金だけでなく、家族に相談する勇気まで奪っていく手口なんです。

 

もう1つは、強盗予備の容疑でした。

今年2月、千葉県木更津市にある元宝石店へ強盗に入る目的で、周辺をうろついたとされる事件です。

逮捕されたのは、菅原容疑者を含む5人。

そのうち2人は、19歳の少年でした。

埼玉県警は、落合金町連合の本部事務所も家宅捜索していると伝えられています。

 

警察は、高齢者から集めた金が、薬物の購入に回っていた可能性があるとみて、入手ルートを調べているそうです。

豊島区のホテルは、そのお金の行き先の一つだったのかもしれません。

80代の男性から消えた50万円が、どこへ流れていったのか。

それを追いかけていた捜査の先に、あの部屋がありました。



ルパン3世を名乗っていたのは誰か

ここで、ネットでいちばん引っかかっていた『ルパン3世』の話に入ります。

先に答えを書いておくと、これは通信アプリの名前ではありません。

秘匿性の高い通信アプリのなかで使われていた、アカウント名です。

 

木更津の強盗予備事件では、5人それぞれに役割がありました。

トップとされるのが、菅原容疑者。

実際に現場へ指示を出していたのは、東京・板橋区に住む21歳の男だと報じられています。

人を集めるリクルーター役が、22歳の男。

そして実行役が、19歳の少年2人でした。

この21歳が、秘匿性の高い通信アプリで名乗っていたアカウント名。

それが『ルパン3世』です。

秘密のやりとりの真ん中で、大泥棒の名前を借りていたことになりますね。

 

実行役の少年たちは、春日部市の駐車場に集められて、偽造ナンバーを付けた盗難車で現場へ向かったといいます。

盗んだ車に、別のナンバー。

指示を出す人間には、アニメの泥棒の名前。

人も車も、本当の名前を消したうえで現場に出ていました。

 

トクリュウ、つまり匿名・流動型犯罪グループというのは、まさにそこが特徴だと説明されています。

暴力団のような固定した組織を持たず、実行役はそのつど集める。

終われば散る。

名簿もなければ、盃を交わすこともありません。

だから捕まえにくいのだと言われてきました。

 

でも、今回の一連の逮捕を並べてみると、少し違う景色が見えてきます。

名前を消せていたのは、下のほうにいた人たちだけでした。

指示役はアカウント名で通せます。

実行役の少年は、闇バイトの募集を見ただけの他人同士。

車のナンバーも偽物にできます。

ところが、その仕組みのてっぺんに座っていた男は、実名も、住んでいる区も、組の名前まで割れていました。

 

しかも決め手になったのは、アプリの中身ではありません。

豊島区のホテルに頻繁に出入りしていた、という足取りでした。

アカウント名は、いくらでも変えられます。

けれど、同じホテルへ通う体そのものは、そう簡単に消せません。

最後に見つかったのも、シーツの中に置かれた袋です。

 

匿名でいられる技術は、下の人にはよく効いて、上の人には効きませんでした。

「トクリュウは匿名だから捕まらない」。

そんなふうに語られることが増えました。

けれど匿名でいられるのは、使い捨てにされる側だけなんです。

名前を隠す仕組みは、いちばん下にいる人の名前から先に消していきます。

上に行くほど、顔も名前も、はっきり残ったままでした。



春日部の駐車場に集まった19歳2人

もう一度、木更津の事件の5人を思い出してみましょう。

トップが32歳。

指示役が21歳。

リクルーターが22歳。

そして実行役が、19歳の少年2人です。

 

19歳といえば、高校を出たばかりか、大学に入って1年目くらいの年ごろ。

バイトを探していても、なんの不思議もありません。

その2人が集められたのは、春日部市の駐車場でした。

偽造ナンバーの盗難車に乗せられて、千葉県木更津市まで運ばれています。

現場に立たされるのは、いちばん名前を消してもらえていない人たちなんです。

 

闇バイトの募集は、いつも「匿名でできる」と言ってきます。

秘匿性の高いアプリでやりとりするから安全だ、と。

身元がバレることはない、とも書かれるそうです。

でも、アプリのなかで名前を消してもらえるのは、指示を出す側だけでした。

実行役は、顔を晒して現場へ行きます。

防犯カメラに映るのも、職務質問を受けるのも、逃げ遅れるのも、そちら側。

 

親の立場で読むと、ここがいちばん怖いところ。

子どもが「大丈夫、名前は出ないから」と言ったとき、その言葉の出どころは、たいてい指示役の口です。

名前が出ないのは指示役のほうで、子どものほうは全部出ます。

現場へ行った2人は、19歳でした。

 

阿部星架容疑者は、いまも「使っていません」と否認を続けていると報じられています。

菅原翔太容疑者についても、余罪を含めた調べが続いているそうです。

どちらの結論も、まだ出ていません。

ただ、この事件でいちばん長く名前が残るのは、トップに座っていた男でも『ルパン3世』でもなく、春日部の駐車場に集まった19歳の2人のほうだと感じてしまいます。

匿名でやれると聞かされた側にだけ名前が残るのは、どう考えても割に合わない話です。

あの駐車場にいた2人がこれからどう扱われていくのかも含めて、続報を待ちたいところですね。