2026年8月24日、韓国の済州島で、5月から行方が分からなくなっていた37歳の女性が遺体で見つかりました。

発見までにかかった時間は、104日。

その2日前には、60代の男性が白骨化した状態で見つかっています。

3日のあいだに、行方不明になっていた4人の遺体が相次いで発見されたとのこと。

そして同じころ、日本のネットでは別の数字が回り始めていました。

「済州島では3年7か月のあいだに失踪届が約3000件」。

行ってもいい場所なのか。

そう考え込んだ人も、少なくないはずです。

この3000件がどこから来た数字なのか、そして済州島でいま何が起きているのかを、順番に見ていきたいと思います。


失踪届3000件はどこの数字か

 

済州島は本当に行ってはいけないのか…失踪届3000件を調べてみた

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まず、この数字が作り話かどうかから。

結論を先に書くと、3000件という数字そのものは済州の警察がまとめた本物の統計から出ています。

報道によると、済州で受理された18歳以上の失踪届は、2023年が944件、2024年が814件、2025年が786件。

2026年も7月末までに370件が届け出られていて、足すと2914件になります。

これが「3年7か月で約3000件」の中身です。

同じ期間に、18歳未満の子どもの失踪届は1341件でした。

大人の行方不明のほうが、子どもの2倍以上あるというのは、少し意外に感じるところ。

この差は、あとでもう一度出てきます。

 

この数字が回り始めたころ、ネットの空気はこんなふうでした。

観光に行った人が消えた事件として受け取られていたのが、この時点の温度です。

ただ、ネットで回っている数字には、ひとつだけ抜けているものがありました。

年ごとの内訳です。

944件、814件、786件と並べてみると、この3年、済州の失踪届はむしろ少しずつ減っています。

年々増えている島の数字ではありません。

3年7か月ぶんを足し上げてひとつの塊にすると、減っている数字も大きく見える。

数字の見せ方としては、よくある形だと思います。

 

とはいえ、減っていようが2914件は2914件です。

この数だけ人が消えているとしたら、やはり怖い話。

そこを確かめるには、もうひとつの数字が要ります。


見つかっていないのは15人

同じ統計のなかに、もうひとつの数字が並んでいました。

この期間に届け出があったなかで、いまも所在が確認できていない大人は15人、18歳未満の子どもは3人だそうです。

2914件のうちの、15人。

残りの人たちは所在が確認されて、届け出そのものが解除されたということ。

ここが、数字の読み方でいちばん大事なところだと思います。

 

失踪届というのは、事件になった件数ではありません。

連絡が取れない、帰りが遅すぎる、家出したらしい、山で道に迷ったのではないか。

そういう心配も、全部おなじ1件として受理されます。

そして多くは、その日のうちか数日のうちに「見つかりました」で解除になる。

この違いは、済州の件をまとめて広く読まれた投稿の書き手自身が、あとから訂正を出しているほどでした。

15という数字が、遺体の数として広まってしまっていたそうです。

韓国全体で見ると、大人の失踪届は年に7万件ほど。

2025年8月の時点でまだ見つかっていない人は6923人で、そのうち3745人は10年以上さかのぼる古い届け出だと報じられています。

この全体像のなかに置くと、済州の2914件は特別に大きな数字ではありません。

 

ここまでなら、話は単純でした。

数字は本物、でも中身は「ほとんど見つかっている」。

ネットが怖がっているほどのことは起きていない、で終われたはずなんです。

 

ところが今回は、その「ほとんど見つかっている」のほうが崩れました。


連絡がついたことにされた298件

いま済州で問題になっているのは、3000という数字のほうではありません。

298という、もっと小さい数字です。

 

済州西部警察署に勤めていた警官が、失踪届を受けたあとに「本人と連絡がついた」と入力して、捜索を終わらせていた疑いが出ています。

実際には、確認していなかったとのこと。

韓国では「セルフ終結」と呼ばれています。

受理した本人が、誰にも報告しないまま、自分で終わったことにする。

 

この警官は、別の性犯罪の疑いで職を解かれるまで、およそ1年5か月ものあいだ、失踪した人を担当する部署にいたそうです。

検察は職務怠慢と、公の記録を偽って作った疑いで逮捕状を請求したと報じられています。

いま、この期間に担当した298件が1件ずつ洗い直されている最中です。

本当に見つかっていたのか、それとも見つかったことにされていたのかを、いまから確かめているところ。

そのうち200件あまりは、上に報告しないまま自分で終わらせた形になっていたと伝えられています。

同じことが他の署でも起きていないか、全国規模の調査も始まったそうです。

この流れを日本語でいちばん早くまとめたのが、さっきの訂正を出した書き手の投稿でした。

日本語でこの件を知った人の多くは、ここが入口だったはずです。

文中の15という数字が、さっきの訂正のもとになりました。

 

ここが、この件のいちばん奥だと思っています。

さっき見た2914件という数字は、探して、見つかったから解除した、という順番があってこその数字でした。

ほとんど見つかっているから安心できる、というのは、その順番を信じているということなんです。

298件のうち、実際にはちゃんと見つかっていた人のほうがずっと多いはず。

それでも全部を確かめ直すしかないのは、どれが本当の解除だったのかを記録から見分けられなくなったからです。

 

壊れたのは数字ではなく、その数字が減っていく手順のほう。

統計というのは、危険の証明でも安全の証明でもなく、誰かがちゃんと探した記録の集まりです。

その記録に、探さないまま押された「解除」が何件混ざっているのか。

その数は、いまのところ済州の警察にもわかっていません。


104日後に見つかった37歳の女性

数字の話が続いたので、ここからは1件だけ、近くで見ていきます。

 

2026年5月、37歳の女性の失踪届が出されました。

受理した警官は「本人と直接電話で無事を確認した」と説明していたそうです。

その説明が、あとから嘘だったとわかりました。

初動が遅れているあいだに、現場周辺の防犯カメラの映像も残っていなかったと伝えられています。

探し始めるのが遅れると、手がかりのほうが先に消えていく。

女性が見つかったのは、8月24日。

済州市翰林邑のヤシ畑の近くで、首をつった状態で発見されたと報じられています。

失踪届が出てから、104日が経っていました。

遺体は、すでに白骨化していたとのこと。

交際していた男性は「自ら命を絶つような状況ではなかった」と話していると伝えられています。

ただ、そこはこれから調べられるところなので、いまの時点で誰かを疑う書き方はしません。

 

その2日前の8月22日には、60代の男性が白骨化した状態で見つかっています。

この2件には、どちらも同じ警官が、夜勤の時間帯に届け出を受けていたという共通点があったそうです。

3日のあいだに4人の遺体が見つかったことで、済州では警察への不信が一気に広がりました。

韓国では、届け出を出したのに探してもらえなかったという遺族の証言が、次々と表に出ています。

「パターンがまったく同じだ」と書かれているのが、いちばん重いところ。

 

ここで胸に刺さるのは、発見までの104日という時間の中身。

家族はその104日のあいだ、警察が探してくれていると思っていたはずなんです。

届け出はもう出しました。

あとは待つしかありません。

そうやって、電話が鳴るのを待ち続けた時間。

 

探していれば助かったのかどうかは、誰にも言えません。

それでも、探されていると信じていた時間だけは、確かに奪われています。

やりきれません。


件数だけ整えると起きること

 

済州島 怖い 本当

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ここまで読むと、ひとりの警官がとんでもないことをした話に見えます。

やったことの責任は、もちろんその人のものです。

ただ、298件という数を眺めていると、それだけでは説明のつかない部分も出てきます。

 

1年5か月で298件。

単純に割れば、2日か3日に1件のペース。

失踪届を受けた側の仕事は、電話をかけて、防犯カメラを当たって、聞き込みをして、というふうに際限なく膨らんでいきます。

反対に、「本人と連絡がつきました」と入力すれば、そこで終わる。

探す仕事は際限がなくて、終わらせる仕事は一瞬で済むというのが、この件の骨組みだと思います。

しかも受理したのは夜勤の時間帯で、そばで見ている人も少ない時間でした。

 

これは、済州だけの話でしょうか。

処理した件数で仕事が測られる場所なら、どこでも起こりうる形です。

未処理をゼロにする道が2本あって、片方が圧倒的に楽なとき、人はそちらへ寄ってしまう。

済州の警察が全国の署にも同じ調査をかけたのは、それが1人の異常さでは終わらないと踏んだからだと思います。

 

もうひとつ、報道で指摘されているのが制度の空白です。

韓国には18歳未満の子どもや認知症の人を守る失踪の法律がある一方で、大人が消えたときには、それに当たる法律がないと言われています。

大人の届け出は「家出人」として扱われて、別の内部規則で処理されるそうです。

体系的な捜査がしにくい現実がある、と専門家が指摘したとも報じられています。

アメリカやカナダには年齢で線を引かない失踪の法律があって、大人も同じ枠組みで探されるという指摘も出ていました。

18歳という線が、そのまま探される人と探されない人を分けてしまう。

届け出の数は、大人のほうが子どもの2倍以上あるのに。

探す根拠が弱いところに、探さずに終われる手順だけが残る。

 

韓国側では、報道された場所を地図に落としたという投稿まで出てきました。

ここまで来ると、不安のほうが先に形を持ちはじめます。

 

それで、行ってはいけない島なのかどうか。

私は、そういう話ではないと思っています。

警察は今回の一連の発見について、連続殺人のような事件との関連は確認されていないと説明しました。

まだ見つかっていない15人という数字も、この3年7か月で膨らんではいません。

危ないのは島そのものではなく、通報が握りつぶされるかもしれないという一点です。

 

だから、旅行をやめましょうという話にはしません。

代わりに、ひとつだけ。

旅先で誰かと連絡が取れなくなって、届け出を出したとき。

「確認が取れました」の一言で、待つ側が引き下がらないこと。

誰が、いつ、どうやって確認したのか。

そこまで聞いておくのが、298件が教えてくれる唯一の手だと思います。

 

済州島が危ない島なのかどうかは、洗い直しが終わるまで、たぶん誰にも言えません。

ただ、いま調べ直されているのは島の治安ではなくて、届け出を受け取った側の手元のほうです。

そこが出てくるまでは、外から見えているものだけで結論を決めてしまわないほうがよさそうですね。

 

104日のあいだ、探されていると信じて電話を待ち続けた家族のことを思うと、胸が塞がります…。

亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。