2026年9月7日、メルカリについてこんな投稿が広がりました。

盗品や海賊版の出品にコメントを入れたユーザーのほうが、「迷惑行為」としてアカウントを止められている。

くら寿司のちいかわコラボが打ち切りになったのが、2026年9月5日の夕方でした。

そのあと出てきた言葉が「転売」ではなく「盗品」だったので、話の向き先がフリマアプリのほうへ移っています。

 

ただ、メルカリが叩かれるのは今回が初めてではありません。

現金が出品されたのは2017年で、そこから何度も同じことが言われています。

通報しても消えない。

この一行を、何年も言い続けている人がいるのです。

 

そこで、なぜ運営が動かないのかを調べていったのですが、途中で思っていたのと違う場所に着きました。

動かないのではなくて、動かなくても何も起きない場所に立っているのです。

そしてその場所は、アメリカでは3年前になくなっていました。


通報した側が消されるという声

今回みんなが引っかかったのは、出品ではなく通報のほうでした。

盗品や海賊版の出品にコメントを入れたら、コメントを入れたユーザーのほうが永久BANになった、という証言です。

 

これは投稿した人の側の話なので、そこだけは先に書いておきますね。

メルカリがどのアカウントをどんな理由で止めたかは公表されませんから、外からは確かめようがありません。

実際「それはコメントで誹謗中傷や迷惑行為をしたからでは」という返信も付いていました。

ただ、ヘルプページを読むと、その構造自体はあります。

メルカリはコメント欄で相手の違反を指摘する行為そのものを、報告ではなく「行為」として扱うのです。

違反の報告は通報フォームからで、コメント欄でやると送信の制限や削除の対象になり得ます。

 

正しいことを言っている側にも制限がかかる。

そういう作りになっているので、「通報した側が消された」という話が出てくると、多くの人がすぐに信じてしまいます。

 

そして通報フォームのほうも、返事が来ません。

ヘルプには「重大な違反を除き、まずはルールをお伝えし改善を促す形で対応をしています」と書いてあります。

出品者へ声をかける、という意味です。

削除ではなく、声かけ。

 

通報した人からは、何も動いていないように見えます。

この「行政が動かない限り」は、じつはかなり正確な言い方でした。


くら寿司の件は転売ではなく盗品の横流し

くら寿司の件でいちばん多く回っていたのが、この指摘です。

この指摘は、法律の上でも正しいのです。

 

定価で買ったものを高く売るだけなら、罪に問う法律がありません。

けれど今回くら寿司が自分の口で認めたのは、従業員が景品を抜いて売っていたという話でした。

抜いた時点で窃盗、それを売れば売った側にも罪が付きます。

 

そして、盗まれた物と知りながら売買を手伝った側にかかる罪もあります。

刑法256条の盗品等有償処分あっせん罪です。

10年以下の懲役と50万円以下の罰金が、両方科されることがあります。

軽い罪ではありません。

 

この罪をフリマアプリの運営に当てられないのか、という話が今回出てきました。

弁護士の解説を読むかぎり、可能性としては残っています。

盗品だと知りながら出品を載せ続けた場合は、運営側にも詐欺罪や盗品等に関する罪がかかり得る、という書き方です。

 

ただし、そこには続きがあります。

監視と削除の手順がちゃんと踏まれていれば、刑事責任が問われる見込みは低い。

捜査機関からの連絡に応じて削除や利用停止をしている、という実績が防波堤になります。

手順は踏んでいる、という形。

 

つまり「知りながら」の部分を外から立証するのが、まず無理なのです。

誰が犯人で会社にいくら請求できるのかはくら寿司×ちいかわ炎上|犯人特定から賠償請求までを解説のほうに書いたのですが、そちらは盗った本人の話でした。

載せていた側の責任は、それとはまた別です。


配布の前日にもう並んでいた湯呑み

怪しい出品かどうかは、見ただけで分かることがあります。

今回は、それがいちばん分かりやすい形で出ました。

 

くら寿司の湯呑みの配布が始まったのは2026年9月4日です。

その前日の9月3日には、もうメルカリに複数出ていました。

まだ誰の手にも渡っていない日に並んでいるので、正規に受け取った人ではないと、見ただけで分かります。

同じことが、映画のほうでも起きていました。

2026年7月24日に公開された映画ちいかわの入場者特典は、劇場に入るときに1人1つ渡される決まりです。

チケットを買った時点ではもらえません。

それが1個1100円以上で取引され、未開封10点セットが2万5000円以上になっていました。

8種類からランダムで1つのはずの物が、10点そろって出てくる。

 

10回観ればそろいますけれど、そう考える人は少ないですよね。

第4弾のシールにいたっては、配布が始まる前から出品されていました。

このあたりの経緯はちいかわ入プレ転売疑惑|映画館スタッフの中抜きは本当にあるのか?で追いかけています。

 

非売品も並びました。

店に飾るためのもので、売り物ではありません。

それが出ていて、会社が削除申請と警察への相談まで進んでいた、という話です。

 

ここまで来ても、見つけて止めるのは出品された会社の仕事です。

怪しいかどうかを判断する材料は、出品ページの上に全部そろっているのに、です。

配布日より前の日付、非売品という表示、ランダムのはずの全種セット。

 

この3つは、人が目で見なくても機械で拾える形をしています。

拾えるのに拾わない。

その理由は、じつは会社のやる気の話だけではありませんでした。


チケットキャンプは転売で潰れたのではない

今回いちばん考えさせられたのが、この一行でした。

チケットキャンプは、コンサートや舞台のチケットを個人どうしで売り買いできた大手サイトです。

たしかに、あの会社は消えました。

覚えている人からすると、前例があるように見えます。

それで経緯を追いかけたのですが、ここで話が変わりました。

チケットキャンプが捜索を受けた容疑は、高額転売ではありません。

 

2017年12月7日に兵庫県警から入った捜索の容疑は、商標法違反と不正競争防止法違反でした。

運営していた別サイトが、事務所の商標権を侵害した疑い。

その後に京都府警の捜索も入り、2017年12月27日にサービス終了が発表されています。

高額転売を助けたことで捜索されたのではなく、まったく別の商標の問題で警察が入っています。

2018年6月には親会社の当時の社長らが、商標法違反の容疑で書類送検されました。

もちろん、高額転売の話が無関係だったわけではありません。

調査委員会は、転売を助長しているとして道義的・社会的に非難されるリスクが高まっている、と書いています。

その指摘が、続けないという判断につながりました。

 

ただ、これは会社が自分で降りたという話です。

法律が引きずり下ろしたのではありません。

つまり「潰された前例」だと思われていたものは、前例になっていませんでした。

別件の捜査と、道義的なリスクの判断。

この2つがそろわないかぎり、同じことは起きません。


法律の条文にある「グッズは対象外」

ここが、いちばん腹の立つところかもしれません。

 

日本にも、転売を禁じた法律はあります。

2018年12月に成立して2019年6月14日に施行された、チケット不正転売禁止法です。

違反すると1年以下の懲役か100万円以下の罰金、またはその両方になります。

 

ちゃんと罰則はあります。

ただし、この法律が守っているのは興行の入場券だけです。

 

対象になるのは「特定興行入場券」と呼ばれるもので、日時と場所と座席が決まっていて、購入時に名前と連絡先を確認していて、転売禁止と券面に書いてあるもの。

この3つを全部満たしたチケットに限られます。

そして条文の説明には、対象外の例まで並んでいます。

列車の乗車券や指定券、限定販売のゲームソフトやグッズ。

 

コラボの湯呑みも、映画の入場者特典も、ここに入ります。

チケットではないので、いくらで売っても法律の外にいるわけです。

フリマアプリの側も同じでした。

古物営業法は盗まれた物の買い取りを想定した法律で、誰から買ったかを記録させるために本人確認を義務づけています。

けれど、個人が自分の要らない物を売るだけなら、この法律の規制を受けません。

 

「売るだけ」という形は、そもそも規制に含まれていないのです。

だから出品者に本人確認の義務もなく、運営に記録を残す義務もありません。

言い方はきついですが、事実の整理としては合っています。

怒っている人が甘いのではなくて、当てる法律のほうが無いんですよね。


買う金を貸す会社が売り場も持っている

ここまでは、出品を止める側の話でした。

もう一方に、出品する人が絶えない理由を挙げている人がいます。

言葉は強いのですが、指している仕組みは実在します。

 

メルペイスマート払いは、いま手持ちがなくても買えて、翌月にまとめて払う仕組みです。

翌月に払えなければ「定額払い」へ切り替えられて、そこから年15%の手数料がかかります。

遅れれば、さらに年14.6%の遅延損害金。

 

ここで大事なのは、利率の高さそのものではありません。

払えなくなった人が返済のお金を作る場所が、同じアプリの中にあるということです。

買う、借りる、売る。

全部がひとつの会社の中で完結します。

 

ポストにある「メルカリハロ」も実在したサービスでした。

2024年3月に始まったスキマバイトの仲介で、登録者は1200万人を超えています。

ただこちらは、2025年12月18日で終わりました。

1年9か月での撤退。

 

ですから「日雇いまで囲い込んでいる」という部分は、いまはもう当てはまりません。

残っているのは、貸すほうと売り場のほう。

 

もちろん、返済のために物を売る人が盗品を売るわけではありません。

そこを結びつけて語るのは、真面目に使っている人にも失礼だと思います。

 

それでも、出品の数が増えるほど手数料が入る会社が、出品の動機のほうにも手を伸ばしている。

この形になっていることは、覚えておいていいと思います。


ヤフーフリマにも並んでいた同じ湯呑み

ここまでメルカリの名前ばかり出してきました。

けれど、並んでいる場所はひとつではありません。

同じ湯呑みが、別のアプリにも同じだけ並んでいました。

売り場が違うだけ。

 

これは当たり前といえば当たり前なんですよね。

ここまで見てきた条件は、どれもメルカリだけにかかっているものではありません。

グッズが転売禁止法の対象外なのも、売るだけの人が古物営業法の外にいるのも、日本のフリマアプリ全部に同じようにかかります。

メルカリだけに空いている穴ではありません。

 

つまり1社が反省しても、隣の売り場に同じ物が並ぶだけです。

不買や退会がなかなか効かないのも、たぶんここだと思います。

 

会社の姿勢の話にしてしまうと、いちばん叩かれた1社が少し対応して終わり。

そして次のコラボで、また同じ景色になります。


アメリカでは3年前から運営側の義務

そのなかで、こういう投稿がありました。

認識が甘いのかも、と前置きされています。

 

けれど、この案はアメリカでは3年前に法律になりました。

2023年6月27日に施行された、INFORM Consumers Act(インフォーム消費者法)です。

直訳すると「消費者に知らせる法律」で、誰が売っているのかを買う側に分かるようにする、という趣旨になります。

 

基準は2つあります。

対象は「大量出品者」で、直近24か月のうち連続する12か月で200件以上売り、売上が5000ドル以上になった出品者を指します。

日本円だと、だいたい70万円くらいです。

その基準に達した出品者について、マーケットプレイス側は銀行口座の情報、連絡先、納税者番号を集めて確認しなければなりません。

政府発行の身分証と税務IDまで確認する、という書き方です。

身分証と、税務ID。

 

集める期限は10日。

そして出品者が10日以内に出さなかったとき、マーケットプレイスの側が販売を止めなければなりません。

 

ここが日本といちばん違うところなんですよね。

止まるのが既定で、続けるほうに条件が付いている。

止めるかどうかを、運営の側が決められません。

 

そして守らなかった場合、連邦取引委員会と各州がこれを執行できます。

違反した会社には、重い制裁金が科される可能性があります。

 

もともとは小売店から万引きした物が大量に流れていることが問題になって、身元を隠したまま大量に売れる状態を無くすために作られました。

日本で言われている話と、出発点はほとんど同じです。

 

違うのは、向こうでは運営が動かないことに罰があり、こちらには無いということだけでした。


その日の夜にメルカリが出した声明

ここまで書いたところで動きがあって、2026年9月7日の夕方、メルカリの公式アカウントが投稿しています。

ニュースの見出しは「連携し商品削除の対応を実施」でした。

 

ただ、会社が自分の口で書いたほうを読むと、少し違います。

公式の投稿にあるのは「出品状況の確認」と「出品者の方へのご連絡」で、「削除」の二文字はありません。

 

削除については、同じ日にITmediaの取材へこう答えています。

禁止行為・禁止出品物に該当すると判断した場合には、取引のキャンセル、商品の削除、利用制限などの措置を実施している。

実際に削除した例もすでにある、とのことでした。

 

ですから、実際に消えている出品はありますし、そこについては動いたと言っていいと思います。

 

それでも、ちいかわ関連をまとめて出品禁止にするのかどうか、といういちばん引っかかる部分が残りました。

ここへの答えは「対応の必要性について状況を踏まえながら随時判断する」でした。

 

やるかもしれないし、やらないかもしれない。

そしてどちらにするかを決めるのは、いまも会社の側です。

削除の対象も、コラボ商品の出品ぜんぶではなく、あくまで「不正に入手された疑いのある」ものだけです。

疑いがあるかどうかを見分けるのは、やはり会社の側になります。

 

コラボの打ち切りが発表されたのが2026年9月5日の夕方で、この投稿が出たのが2026年9月7日の夕方です。

あいだに土曜と日曜が入っています。

 

その2日で、湯呑みもフィギュアも売れていきました。

安心した、という声はほとんど見当たりませんでしたが、その理由は次でだいたい説明がつくと思います。


メルカリは放置してよい場所に立っている

動いたじゃないか、と思われたかもしれません。

けれど今日ひとつも変わっていないのは、動かなくても何ひとつ起きないという部分です。

 

グッズは転売禁止法の対象外だと条文の説明に書いてあり、売るだけの人は古物営業法の外にいて、盗品と知っていたことは外から立証できない。

通報を受けて出品者へ声をかければ、手順は踏んだことになります。

 

そこへ、売れれば手数料が入るという事情が重なります。

この2つがそろったとき、動かないほうが得だという計算が立ってしまう。

 

だから怒っている人たちの見立ては、ずれていませんでした。

むしろ、いちばん正確に言い当てていたと思います。

ただ、ずっと引っかかっていることがあります。

本人確認も出品制限も、法律で決まらないとできないことではありません。

被った物を譲りたい人のことまで考えた案です。

 

配布日より前の出品を弾く。

非売品と書いてある物を止める。

ランダム商品の全種セットに一度目を通す。

 

どれも法改正を待たなくても、明日からできることばかりです。

やらない理由が、法律の側にはもう残っていません。

 

2017年に現金が並んだときも、削除の対象になったのは同じ流れでした。

叩かれて、それから消えた。

今回も、順番はまったく同じでした。

ただ今度は、届かなかった湯呑みと入場者特典の数だけ、覚えている人がいます。

 

次に配布日より前の日付で何かが並んだとき、それを見つけるのは、きっとまた買おうとしていた人のほうです。

そのとき、見つけた側が黙らされないでほしいと思います。

法律ができるのを待たなくても、そこは今日から変えられますよね。