夏にチケットを取って、航空券とホテルを押さえて、あとは出発の日を指折り数えるだけ。

遠征の予定が入った秋は、カレンダーを見るたびに少しうれしくなるものですよね。

ところが2026年10月20日の13時半、『ウマ娘 プリティーダービー』の公式サイトに出たのは、ロサンゼルス公演の中止を伝えるお知らせでした。

理由は「公演に必要な米国ビザを取得できなかったため」。

現地時間の10月22日と23日に予定され、報道では「海外初の大型ライブ」と紹介されてきたステージです。

ビザがまだ下りていないと知らされてから、中止が決まるまで、わずか1日あまりでした。

前の日に冗談まじりに書かれていたこの一言のとおり、観光するしかない数日が、本当にやってきてしまったわけです。

スポーツ紙の記事には、すでに現地へ渡ったファンの「あの すみません もうアメリカにいるんですが」という声まで紹介されていました。

半年も前から準備していたのに、なぜビザは下りなかったのか、どうしてもっと早く言ってくれなかったのか、払ったお金はどうなるのか。


開演直前の中止発表

中止になったのは、『ウマ娘 プリティーダービー 7th EVENT WORLD TOUR “THE STAGE” in LOS ANGELES』という公演です。

会場はロサンゼルスのピーコックシアターで、Machico、高柳知葉、小倉唯をはじめ、17人の声優が出演する予定でした。

ロサンゼルスでの開催が明かされたのは、2026年6月に有明アリーナで開かれた東京公演のステージの上です。

このときロンドン、ソウル、横浜での開催もあわせて発表されていて、ロサンゼルスは東京に続くワールドツアーの2か所目にあたっていました。

 

7月には詳しい中身が出て、チケットは350ドルのVIP席から80ドルの席まで、日本からはJTBの公式ツアーも組まれています。

現地へ行けない人のために、配信やライブビューイングも用意されていました。

最初のお知らせが出たのは、19日の昼のことです。

「渡米に必要なビザの取得に向け現地弁護士やプロモーターにご協力いただき半年以上前から準備を進めておりましたが、現時点でビザの承認が下りておりません」と書かれ、開催するかどうかは20日14時までに知らせるとされていました。

そして翌20日、自分で区切った14時の30分前に、中止が発表されたわけです。

お知らせには「スタッフ一同、開催を目指し関係各所とも調整を重ね、あらゆる方法を模索してまいりましたが」とあり、最後は、ファンの呼び名である「トレーナー」と、出演を準備してきたキャストやスタッフへのお詫びで結ばれていました。

 

半年以上前というと、2026年の4月かそれより前のこと。

運営は、ロサンゼルス公演をファンの前で発表するより先に、もうビザの準備に取りかかっていたことになります。

それだけ早く動いていたのに、知らせが届いたのは開演の直前でした。

中止が決まる6時間ほど前には、自分で渡米する予定のファンが、こんなふうに書いています。


半年でも足りないビザ

中止のお知らせに書かれていたのは「取得できなかった」までで、なぜ下りなかったのかは書かれていないんです。

ただ、半年の準備でも足りなくなる理由なら、ビザの仕組みの中に見えていますね。

観光なら、ネットで申し込む電子渡航認証(ESTA)でアメリカへ入れますが、お金をもらってステージに立つとなると話は別で、仕事のためのビザが必要になります。

アメリカの移民局(USCIS)の案内では、芸術の分野で抜きんでた人に向けたもの、国際的に認められたグループに向けたものなど、出演者の立場ごとに種類が分かれているとのこと。

ウマ娘の公演がどの種類で申請していたのかは、公表されていません。

 

手続きは、大きく分けると次の3段階です。

  • アメリカ側の主催者が、移民局へ出演者についての請願書を出す(出演者の分野の専門団体が書いた意見書も添える)
  • 移民局が認めたら、出演者が日本にあるアメリカ大使館・領事館で面接を受ける
  • 面接を通ると、パスポートにビザが貼られる

請願書を出せる時期にも決まりがあり、公演の1年前からとアメリカの連邦規則で定められています。

中止が決まる半日前、20日の深夜1時すぎには、こんな戸惑いの声も。

移民局の数字として、アメリカの公共ラジオ局が伝えた目安があります。

2026年2月1日の時点で、最初の請願書の審査にかかる期間は、グループ向けがおよそ9か月、個人向けは9か月半でした。

1年の枠には収まるものの、これだけを見ると、半年前の準備では間に合わないように思えますよね。

 

ただ、お知らせの「半年以上前から準備」が、書類を出した日のことなのか、準備に取りかかった日のことなのかは、外からは分かりません。

それに、追加で2,965ドルを払えば、移民局が15営業日以内に答えを出す急ぎの仕組みもあります。

けれど、急ぎの仕組みで速くなるのは、最初の書類の審査だけ。

 

その先には大使館での面接があり、同じラジオ局は、アメリカ国務省の方針で2025年9月から、ほぼすべての申請で対面の面接が原則になったと伝えています。

面接の順番を待つうちに、予定していた国際線に間に合わなくなったアーティストの話も紹介されていました。

つまり半年の準備で間に合うかどうかは、急ぎの仕組みを使えたかどうかと、面接の順番がいつ回ってくるかの2つにかかっているわけです。

ウマ娘の件が、この3段階のどこで止まったのかは、中止のお知らせにも書かれていません。


途中で言えなかった理由

それでも、半年も前から準備していたなら、途中で一言くらい知らせてほしかった。

直前のお知らせに、そう感じた人は少なくありません。

ここで引っかかるのが、ビザには〈合格発表の日〉が決まっていないことです。

急ぎの仕組みで期限がつくのは書類の審査までで、面接の順番まで含めると、「この日に必ず答えが出る」という日はありません。

断られたならはっきりしますが、審査が続いているかぎり、答えはずっと「まだ」のまま。

 

この秋は、ほかにもアメリカのビザで予定が狂った公演がありました。

2026年10月13日、ウマ娘と同じピーコックシアターで、ゲーム『メタファー:リファンタジオ』のオーケストラコンサートが開かれています。

このロサンゼルス公演を含むアメリカでの3公演に、日本から出演するはずだった歌手が「予期せぬビザ処理の遅れ」で出られず、別の歌手が代わりに立ちました。

韓国のグループSHINeeのテミンも9月の終わり、初日まで2週間を切った時期に北米ツアーの延期を発表し、スタッフのビザがいつ出るのか見通しが立たないことを理由に挙げています。

スポーツやゲームの大会も同じで、この夏アメリカで開かれたサッカーのワールドカップでも、10月からアメリカで開かれているゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』の世界大会「Worlds」でも、ビザが下りずに来られない人が出たと報じられていました。

海外のファンからは「ワールドカップでもビザ、Worldsでもビザ、ウマ娘7thでもビザ」とぼやく声もあるほどです。

 

メタファーのコンサートが挙げた理由は「遅れ」、テミンのツアーが挙げた理由は「見通しが立たない」で、どちらも「不許可」ではありませんでした。

答えが「まだ」のまま、どこかで待つのをやめる判断をしたということ。

ウマ娘の中止のお知らせにも「不許可になった」とは書かれておらず、選ばれていた言葉は「取得できなかった」です。

審査が続いているあいだは「下りない」という知らせも届かないので、待つのをやめる日は、主催者が自分で決めるしかない。

 

下りる見込みが残っているうちに中止を口にすれば、まだ開催できたかもしれない公演まで自分から手放すことになります。

だから「中止かもしれない」という知らせは、どうしても最後の最後まで後ろへずれ込んでいくんです。

とはいえ、旅を組んで待っていた側には、直前まで何も知らされなかった引っかかりが残りますよね。


払い戻しはどこまで

航空券やホテルをもう手配してしまった人にとっては、そこがいちばん気になるところですね。

中止が決まる前の日には、こんな心配も出ていました。

20日のお知らせで、払い戻しの対応を予定していると書かれたのは、次の4つです。

  • 現地観覧チケット
  • 配信チケット
  • JTBの公式ツアー
  • ライブビューイング

自分で取った航空券やホテルは、この4つには入っていません。

そのかわりお知らせには、「本公演に現地参加される予定のお客様への対応を検討しております」という一文があり、詳しいことは決まりしだい特設サイトで知らせるとのこと。

自分で旅を組んだ人たちへの扱いは、「検討しております」のまま、まだ決まっていません。

それまでのあいだ、予約したサイトのキャンセル規定を開いておくと、特設サイトの案内が出たときに慌てずに済みそうです。

自力勢の怒りと旅費が戻ってくる見込みは、ウマ娘LA公演中止の闇|自力勢の旅費が戻らないのはキツい…にまとめています。

関連記事:ウマ娘LA公演旅費返金は個人も対象?領収書なしや渡航済みの返金条件を調べてみた


ロサンゼルスに残る数日

もうアメリカに着いている人にとっては、払い戻しと同じくらい、残りの日をどう過ごすかも気になってくるころかもしれません。

ウマ娘は2025年の夏から英語版も配信されていて、現地にも同じゲームを遊ぶファンがいます。

ロサンゼルス郊外のサンタアニタ競馬場では、公演の最終日になるはずだった23日の翌日、10月24日から2日間、競馬場が主催するコスプレイベントが開かれる予定です。

その会場で、現地のファンの有志がウマ娘の大会を開くことも案内されています(大会のほうはCygamesとは関係のない、ファンの催しだそうです)。

ロンドン、ソウル、横浜へと続くはずのワールドツアーは、2か所目のロサンゼルスで幕が上がらないことになりました。

仕組みのせいだと分かっていても、「まだ下りていない」の一言がもう少し早ければ、旅の組み方を選べたトレーナーはいたと感じてしまいます。

半年でも足りなかった理由ははっきりしないままですが、ビザの「まだ」には、お金でも半年でも期限をつけられないということかもしれませんね。