2026年10月17日、フランス中部の街リモージュで、140年あまり前に建てられた市庁舎に火がつけられ、屋根の上の鐘楼(鐘をつるした塔)ごと崩れ落ちました。

この日はフランス全土で、物価高や学校への不満を訴える高校生や労働組合のデモがあり、その陰でマルセイユやボルドーの役所も荒らされ、週末のあいだに少なくとも3,000の店が被害を受けたと政府は発表しています。

暴れた人たちの中に移民の若者が多かったのではないかという声も上がり、燃え上がる街の映像を見て「日本も他人事じゃない」と感じた人は少なくありません。

日本でもこの1年、古い神社やお寺が燃える火事が各地で続いていたので、なおさらです。

 

日本でもフランスと同じことが起きる理由は、どこにあるのでしょうか。

リモージュ市長が語った国旗への憎しみ

リモージュは陶磁器の街として知られていて、その街の真ん中に、正面に大時計があり、フランスの三色旗を掲げた市庁舎が建っていました。

リモージュ市庁舎のプロフィール

フランスの三色旗が掲げられたリモージュ市庁舎の正面

  • 場所 フランス中部の街リモージュの中心部
  • 完成 1883年
  • 特徴 正面の大時計と屋根の上の鐘楼、市長や職員が働く役所
  • 2026年10月17日 デモの終わりごろに放火され、屋根と鐘楼が崩落

写真:Rslr22(Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0)

17日の夕方、デモの終わりごろに集団が建物へ押し入り、1階に火をつけました。

中にはまだ市の議員や職員、市の警察官が残っていましたが、けが人は出ていません。

夜8時半ごろには鐘楼が崩れ落ち、国から任命されてこの地域を治める県知事は、「破壊者による意図的な行為で、デモの参加者ではない」と語り、「歴史的な遺産の大惨事」だと嘆いています。

リモージュの市長ギヨーム・ゲラン氏は、まだ火が消えないうちに開いた会見で、こう言いました。

これは愚かさではありません。憎しみです。フランス国旗への憎しみです。

制度への憎しみ、高校の校長への憎しみ、警察への憎しみ、議員への憎しみ、権威を体現するすべてのものへの憎しみです。

消防士が炎の中から救い出してくれた三色旗1枚だけが、市長の手元に残りました。

その2日後の19日、市長は「放火は計画的で、下見もあった」と話し、火をつけたのは極左と移民の出の人たちだと名指ししています。

ただ、これは市長の見方で、捜査で確かめられた話ではなく、テロ事件を扱う専門の検察がこの火事を担当するかどうかも、19日の時点ではまだ決まっていませんでした。

 

フランスで国旗や国歌への反発が問題になったのは、今回が初めてではありません。

きっかけは、2001年10月のサッカーの試合でした。

パリ郊外の競技場で、フランスとアルジェリアの代表が初めて戦った親善試合で、試合前のフランス国歌が観客席からの口笛とブーイングにかき消されたのです。

後半には100人ほどの若者がピッチになだれ込み、試合はそのまま止まってしまいました。

アルジェリアは、フランスに支配されたあと、長い独立戦争をへて1962年に独立した国です。

この騒ぎのあと、2003年には国旗や国歌を侮辱する行為を罰する法律までつくられています。

 

リモージュが燃えた17日には、マルセイユやボルドー、リヨンでも、市庁舎や県知事の公邸といった、国や街を代表する建物が狙われました。

マルセイユでは市庁舎に押し入った集団が、フランス共和国の象徴であるマリアンヌ像の胸像を倒し、ボルドーでは国から任命された県知事の公邸が荒らされ、リヨンでは19世紀に建てられた観光案内所が焼けています。

2023年にパリ郊外の少年が警察官に撃たれて亡くなったあとに広がった暴動でも、一晩だけで何十もの役所や学校が燃やされたり荒らされたりしていて、役所や学校は、前の暴動のときから同じように狙われてきました。

警察や役所、国旗のように「フランスという国そのもの」を感じさせる場所ばかりが、火をつけられたり荒らされたりしていたんです。

マクロン大統領も18日夜の演説で、「フランス人が、なぜフランスにこんなことができるのか」と問いかけています。

無傷だったハラルの店の動画

パリでは、壊されたマクドナルドのすぐ隣にあるハラル認証の店(イスラム教の決まりに沿って、豚肉やお酒を使わない料理を出す店)は無傷だった、という動画が撮られていて、それが日本でも話題になりました。

もとの動画はフランスの写真記者が撮ったもので、パリ市内のサン=ドニ大通りに並ぶ2軒の店を、暴動の翌日に映しています。

記者自身の投稿には、「昨日、サン=ドニ大通りのマクドナルドで放火未遂。上の階には人が住んでいる。すぐ隣のマスター・プーレは被害を免れた」とだけ書かれていました。

マスター・プーレは、ハラルを掲げる鶏肉料理のチェーン店で、動画の中ではシャッターを下ろしたままで、そのシャッターにも目立った傷は見えません。

一方、壊されたマクドナルドの正面のガラスには「FREE GA」で途切れた落書きが残っていて、パレスチナのガザ(GAZA)と書きかけたようにも見えます。

 

マクドナルドは、2023年秋にガザでの戦争が始まったあと、イスラエルの店舗がイスラエル兵に食事を無料で配ったことから、パレスチナを支持する人たちの不買運動の的になってきた店です。

暴動の映像に、パレスチナを支持する旗が映っていたことを思えば、マクドナルドが壊されて隣のマスター・プーレが無傷だったことに、何か意味があるのではと読み取りたくなります。

ただ、南部のマルセイユでは、地元のユダヤ人社会の代表が、ユダヤ系の店もそうでない店も、イスラム教徒の店も区別なく襲われたと話していて、持ち主の宗教で店を選んだという話は、いまのところ裏づけられていません。

店を選んで壊したと示す材料はまだなくても、不買運動の的になってきたマクドナルドが壊され、隣のハラルの店マスター・プーレが無傷だった様子は、動画にそのまま映っています。

移民の暴動かどうかを確かめられない理由

街を壊した人たちの顔ぶれについては、フランスの中でも見方が割れています。

マクロン大統領は、暴れたのは「極左の扇動者たちに、大勢の犯罪者が加わった」人たちだと語っています。

極左とは、いまの国の仕組みそのものに反対する、左派の中でもいちばん過激なグループのことです。

南部のトゥールーズで捕まった107人について、地元の検察は、未成年や女性も含まれていて、多くは前科のない人だったと明かしています。

一方、移民の受け入れに反対する右派団体の代表は、現場を見て「アフリカ系の移民の背景を持つ若者ばかりだった」と投稿しています。

 

どちらが本当なのかを数字で確かめようとしても、フランスでは人種や民族の出自を数えること自体が法律で厳しく制限されていて、役所が数えられるのは国籍までです。

今回捕まった人たちの国籍の内訳も、いま出ている報道を見る限りでは、まだ明らかにされていません。

パリの検事長も19日、捕まった人の多くは取り調べで口を閉ざしていて、どんな考えの人たちなのかさえ言えない、と話しています。

移民の子として生まれたフランス国籍の若者は、国籍で数えても「フランス人」の側に入るので、役所が数字を出そうとしても、移民の暴動かどうかは、はじめから確かめようがないのです。

疑いがふくらんでいくのは、確かめるための数字を出さず、数えることを法律で縛ってきたフランスの国のほうに問題があるからです。

関連記事:フランス暴動をテレビが報道しない理由…移民と極左の闇

宮島の霊火堂も燃えた日本の寺社の火事

杉並区議会の小林ゆみ議員も、フランスの歴史的建造物が壊される映像に、日本の寺社の火事を重ねて投稿しています。

今年に入ってからも、各地の神社やお寺で火事が相次ぎました。

2026年の主な寺社の火事

  • 1月 北九州市の須賀神社で社務所と倉庫が燃える
  • 4月27日 三重県名張市の宇流冨志禰神社で本殿が全焼
  • 5月20日 広島県・宮島の大聖院「霊火堂」が全焼
  • 6月1日 京都府亀岡市の千手寺で、住まいの建物が燃える
  • 6月30日 佐賀県伊万里市の円通寺で本堂と住まいが全焼
  • 9月1日 山口県山陽小野田市の清安寺で本堂が全焼

宮島の霊火堂は、空海(弘法大師)がともしたと伝わる「消えずの火」を1,200年守ってきたお堂。

そのお堂が、5月20日の朝、基礎だけを残して焼け落ちています。

廿日市市消防は2026年8月28日、焼け方が激しくて手がかりが残らず、有力な目撃の話もなかったとして、出火の原因は特定できなかったと発表しました。

事件性は低いとみられています。

 

読売新聞が伝えた消防庁の統計では、神社やお寺の火事は2016年に83件あったのが2025年は37件で、放火や放火の疑いがあるものも27件から3件になっていました。

数は減っていても、火事が起きたあと、はっきりした原因が発表されないまま次の火事のニュースが届くことが少なくありません。

「イスラム教徒の放火」は本当か

今年の寺社の火事でも、名張市や伊万里市のように、犯人が捕まった件がいくつかあります。

名張市の宇流冨志禰神社では10月8日に51歳の無職の男が放火の疑いで逮捕され、伊万里市の円通寺では、その寺に住む28歳の僧侶見習いが「人生のすべてが嫌になった」と話して逮捕されています。

逮捕を伝えたどの報道を見ても、容疑者が外国籍だということは書かれていません。

それでもSNSでは、神社や養豚場で火事が起きるたびに「イスラム教徒の放火だ」という投稿が広がってきました。

読売新聞が、拡散した10件の寺社の火事について警察と消防に取材したところ、8件で「少なくとも外国人による放火はない」などと否定され、残る2件は調査中として答えが得られなかったそうです。

2025年6月には、大阪市の神社のボヤをめぐって、「イスラム教徒が『邪教だから火をつけた』と供述した」という文書がSNSで大きく拡散しました。

けれども大阪府警の答えは「そうした事実はない」。

警察は10歳前後の子どもたちのいたずらとみて調べていて、文書を各神社に送った大阪府神社庁(府内の神社をまとめる団体)も、のちに内容の誤りを認めています。

 

とはいえ、外国から来た人が日本の神社を汚した事件は、実際に起きています。

  • 2024年5月 靖国神社の石柱に中国籍の男らが「トイレ」と落書き(2人は出国、日本に残っていた男は懲役8か月の実刑)
  • 2024年11月 明治神宮の鳥居に、観光で来ていたアメリカ国籍の男が爪で文字を刻んで逮捕(のちに不起訴)
  • 2025年7月 沖縄の護国神社で灯籠などを壊したとして、オーストラリア国籍の男が逮捕

靖国神社の落書きは、中国の動画サイトで再生数を稼ぐための撮影だったのではないかとも報じられました。

フランスの市庁舎は「国旗への憎しみ」から燃やされたと市長は言い切りましたが、日本で原因が分かっている今年の寺社の火事に、国や宗教を狙ったものは、今のところ見つかっていません。

それでも火事のたびに「もしかして外国人では」と頭をよぎるのは、日本の神社を遊び場や撮影場所のように扱う外国人の姿を、実際に何度も見てきたからです。

暴動の街に出かけていた日本人観光客

暴動が起きた17日のパリには、日本から来た観光客もいました。

ルーブル美術館を見学して外に出たところで催涙ガスに巻き込まれたという日本人カップルが、そのときの様子を動画に残していました。

動画には、口を布で覆って歩く様子や、倒れた電動キックボード、並ぶ機動隊の姿が映っていて、「僕ら以外の観光客もここに沢山いました」という字幕もついていました。

この動画は海外で「日本人観光客が移民の暴動に出くわした」という話として広まり、日本からは「この時期に行く方が悪い」という声も出ています。

17日の全国デモは、組合や高校生が何日も前から呼びかけていて、日にちも前から分かっていました。

それでも、日本で暮らしていると、デモは届け出をして決まった道を歩くもので、警察とぶつかったり店が燃やされたりするものだとは、なかなか想像できません。

 

共和国広場では、アニメ「NARUTO」の登場人物オビトの仮面とマントを身につけた人物が、燃える車の前で両腕を広げる動画も出回りました。

投稿には「共和国広場に着いたらオビトがいて、車に火遁(NARUTOに出てくる火の術)を放っていた」の一言。

日本の作品が暴動の映像に使われたことに、日本のファンからは「オビトを使うな」という声も上がりました。

 

外務省は、海外へ出かける人に「たびレジ」への登録をすすめていて、登録しておけば、滞在先でデモや暴動が起きたときに大使館からの安全情報がメールで届きます。

人が集まる広場や大通りに近づかず、ホテルの人に街の様子を聞くだけでも、巻き込まれる危険はずっと小さくなります。

2026年10月19日の夜からは、パリのレピュブリック(共和国)広場とレアール地区で、23時から翌朝6時まで立ち入りが禁じられました。

全国デモが呼びかけられた日のパリは、ふだんの観光の街とは違って、いつ衝突が起きてもおかしくない街だと考えておくほうが安全です。

棲み分けの考え方と移民に反対する理由

フランスの大都市の周りには、移民の家族が多く暮らす大きな団地の街があり、仕事にも学校にも居場所のない若者が、同じ場所に固まって育ってきました。

2005年は警察から逃げようとしたとされる少年2人の感電死、2023年は警察官に撃たれた17歳の少年の死、そして今回は物価と学校への怒り。

暴動のきっかけは毎回違っても、火の手が上がるのは、いつも同じような郊外の街からでした。

それなのにフランスの役所は、郊外で何が起きているのかを数字で示せないまま、20年あまりがたってしまいました。

 

棲み分けといっても、人を出自で分けて追い出す話ではなくて、同じ国に住むなら同じ決まりを守る、という話です。

そのうえで、宗教や食べ物、お墓のように暮らし方が違う部分は、どこで・どんな決まりでやるのかを、受け入れる前に話し合っておく。

 

イスラム教では火葬を避けて土葬するのが決まりのため、日本でも、イスラム教徒のための土葬の墓地をどこにつくるかといった話は、すでに各地で持ち上がっています。

出入国在留管理庁によると、日本で暮らす外国人は2026年6月末で約428万人と過去最多になりました。

移民の受け入れについて、日本で暮らす私たちが引っかかっているのは、たとえば次の3つではないでしょうか。

  • 受け入れる人の数が、説明のないまま増えていくこと
  • 日本の決まりを守らない人への対応が、あいまいなままなこと
  • 事件や火事のあと、原因がなかなか発表されないこと

18日のXでは、暴動の映像に「これが多文化共生の実態です」と書いた人に、イギリス出身の経営者デービッド・アトキンソン氏が「余計なお世話」と返したやりとりも、大きな話題になりました。

自分の国がこの先どうなるのかを心配することは、余計なお世話ではありません。

 

日本でも同じことが起きる理由は、外国から来た人が増えていくのに、どんな決まりで迎えるのか、何人まで受け入れるのかを、国がはっきり語らないまま進んでいくところが、フランスとよく似ていることにあります。

不安を口にしただけで「差別だ」と返されてしまう空気が、その話し合いをいちばん遠ざけているのかもしれませんね。