ピンク色の怪獣が、おもちゃ箱をひっくり返したような街を踏みつぶしている一枚の絵。

2026年10月1日、ロックバンドのL’Arc-en-Ciel(ラルク アン シエル)が、新曲「総天然色(そうてんねんしょく)」のジャケットとして公開したものです。

これを見た人たちから「もろAIジャケットやんけ」「ひどい絵ですね」という声が一気に上がり、生成AIで作ったのではないかという話でネットが騒がしくなりました。

曲は10月7日に予定どおり配信されましたが、ジャケットについての説明はまだ出ていません。

私も最初は、えっ、ラルクがこれを出したの、と手が止まったひとりです。

 

ところが同じ日のうちに、わざとAIっぽく見せて、AIの絵があふれるいまの世の中を皮肉っているのではないか、という「風刺説」も出てきました。

突拍子もない話に聞こえますが、ラルクには2000年に、メンバーの首から下がまるごと別人というダンス映像を大まじめに作って話題になった前歴があるんです。

今回は、指摘されている絵の粗と風刺説の根拠を、ラルクの昔のエピソードとあわせてわかりやすくまとめていきたいと思います。


「もろAI」と言われた絵

「総天然色」は、ラルクにとって約2年ぶりの新曲です。

2026年8月、初めて出演した音楽フェス「SUMMER SONIC 2026」で、その日の最後を飾るヘッドライナーとして披露されました。

ボーカルのhydeは、結成35周年の幕開けにふさわしい「新しく世界が目覚めるような元気で明るい曲」をと思って書いた、とコメントしています。

その配信が10月7日に決まったという知らせと一緒に出てきたのが、このジャケットでした。

黄色いボタンのような目をしたピンクの怪獣が、水玉もようの戦闘機のようなものをわしづかみにして、カラフルな街で暴れています。

空には目のついたUFO、右には「総天然色」と光るネオン、左にはバンド名の入った看板。

かわいい、という声もありました。

ただ、それよりずっと多かったのが「お手本のようなザ・生成AI画像ですね」といった声です。

 

絵やデザインを仕事にしている人からは、ショックだという投稿も出ています。

10月9日に始まる35周年ツアーを前に、「ライブ1週間前にして曲聞けなくなるくらいAIショック受けてる」と書くファンまで出てきたほどです。

騒ぎはネットメディアにも取り上げられ、10月3日の記事は「ラルクほどのアーティストでも制作費ケチるんだ」という声を見出しにしていました。

ただ、このジャケットを生成AIで作ったのかどうか、ラルクの公式は何も説明していません。

10月7日に配信が始まりましたが、公式サイトにも、配信開始を知らせた公式Xの投稿にも、ジャケットの話は出てきませんでした(2026年10月8日の時点)。

AIなのかどうかも、わざとなのかどうかも分からないまま、騒ぎだけが広がっている状態です。


バンド名まで崩れている

「AIっぽい」と言われるのにはちゃんと理由があって、絵をよく見た人たちが、おかしなところを次々に見つけていきました。

  • 左の看板のバンド名が、正しいつづりに見えない
  • タイヤが1組しかないように見える車
  • 形がどうなっているのか分からない右下の黄色い車
  • 1機ずつ形がバラバラな戦闘機
  • 怪獣が何を握っているのか分かりにくい

文字のつづりが崩れたり、乗り物の形がおかしくなったりするのは、生成AIの絵で起きやすいことで知られています。

「素人がパッと見ただけでも粗がありすぎる」「おかしい所の修正くらいできなかったのかしら」と、きびしい声が並びました。

バンド名については、「せめて自分らの名前だけはしっかりチェックするとか」という声も出たくらいです。

 

でも、名前のところだけは、見落としで済ませるにはどうにも不自然に思えます。

バンドの名前は、ジャケットを確認する人なら誰でも真っ先に目がいく場所のはず。

35周年の節目に出す一枚で、そこを誰も気づかないまま通してしまうとは、どうしても思えません。

同じところで首をかしげた人がいました。

いまのAIなら個人でももっときれいに作れるのだから狙いだろう、と書く人も。

直せたはずの粗が、直されないまま世に出ているわけです。


怪獣の胸にLのマーク

細かいところからいったん目を離して絵ぜんたいを眺めると、怪獣の胸に、バンド名の頭文字と同じ大きな「L」のマークが入っているのに気づきます。

「怪獣にロゴ入ってるけどラルクが暴れてるって設定?w」と、バンドのロゴだと受け取った人もいました。

この読み方でいくと、街を壊しているのは、よそから来た怪獣ではなくラルクの印をつけた怪獣なんですね。

 

では、壊されているのはどんな街でしょうか。

つやつやの車に、ピンクに塗られた東京タワーのような塔、目がちかちかするほどの色づかい。

しかもAIっぽいと指摘されていた粗は、看板にも車にも戦闘機にも、つまり怪獣に壊される側に集まっています。

「AI まみれの世界が“破壊されてる”って事じゃん」と受け取った人もいました。

いっぽうで、怪獣そのものをAIの危うさと見た人もいます。

怪獣がラルクなのかAIなのか、受け取り方は人によって分かれました。

怪獣をラルクと見る人からは、「AI感(キモい感じ)をあえて残して、それをぶっ潰す構図」という声も出ています。

どちらの読み方をした人も、絵の不自然なところは「あえて残した」ものだと見ていました。

 

「『AIだと思ってください』という作者の意図が見えるんよな」という声まであります。

崩れた文字も、形のおかしい車も、「これはAIの絵ですよ」と気づいてもらうための目印だとしたら、直さずに残したことにも筋が通るんですよね。

生成AIを使ったにしても、AIそっくりに人が作ったにしても、わざと粗を見せているのなら、手を抜いた絵とは別の顔が見えてきます。


題名は「ぜんぶ天然色」

わざとAIっぽく見せているという風刺説を、いちばん強く支えているのは、絵よりも曲の題名のほうです。

総天然色というのは、昭和の映画ポスターに使われていた宣伝文句で、いまの言葉でいえば「全編カラー」のこと。

白黒映画がまだ多かった時代、見せ場だけをカラーにした映画と区別するために、「総天然色」や「オールカラー」とポスターに書いていたそうです。

昔の怪獣ものの決まり文句でもあって、ジャケットを見てすぐにそれを言い当てた人がいました。

ここまでなら、昔の怪獣映画へのオマージュという話で終わります。

 

けれど、この言葉を文字どおりに読むと「ぜんぶ天然の色」。

「総天然色やのに総AI色やんけ!ってツッコミを期待しての、このジャケットなんやろうか」と書いた人がいて、思わず笑ってしまいました。

言われてみれば、「ぜんぶ天然」と名づけた曲に、いちばん人工っぽく見える絵を着せているんです。

題名と絵がここまできれいに逆を向いていると、たまたまと考えるほうが難しい気がします。

 

歌の中身も、この読み方を後押しするものでした。

10月7日に配信されたのは、1分42秒のRadio Edit(短く編集した版)。

配信の前にライブで聞き取ったファンの書き起こしによると、画面の中に閉じこもっている相手に呼びかけて、色のなくなった頭の中を塗りかえたいと歌う内容だそうです。

「バーチャルな世界に浸ってないで現実の今を生きようぜって内容だから、わざともろAI風にしてそれをぶち壊すって意図なのかもな」と読んだ人もいました。

がっかりしたという反応そのものが、歌で言われていることだ、と受け取った人もいます。

聞き取りなので細かい言葉は違っているかもしれませんが、題名も、絵も、歌も、同じ方向を向いているとは言えそうです。


首から下は別人のダンス

ジャケットひとつにそこまで手の込んだ悪ふざけをするものなのか、と思いますよね。

やるんです、ラルクというバンドは。

いちばん有名なのが、2000年に出たシングル「STAY AWAY」のミュージックビデオです。

曲の最後のサビで、メンバー4人が大勢のダンサーの先頭に立ってキレのあるダンスを踊るのですが、その首から下はプロのダンサーの体を合成したものでした。

 

映っている体はダンサーのものでも、顔の動きを合わせるために本人たちも同じ振り付けを踊らなければならず、すごい筋肉痛になったのだとか。

ベースのtetsuyaは当時のインタビューで、「いかにバカバカしいことを大マジメにやるかっていう面白さですよ」と話していました。

この映像は、その年の音楽専門チャンネルの賞で最優秀ビデオに選ばれています。

2025年にテレビでこの曲が取り上げられたときにも、こんな投稿が出ていました。

25年たっても、種明かしごと愛されている映像なんですね。

 

曲そのものにも、皮肉がこめられていました。

ボーカルのhydeが書いた歌詞のもとになったのは、「型にはまるなって言ってるヤツのほうが、型にはまってる場合もあるだろう」という、作曲したtetsuyaの一言。

自由だと言っている人ほど型にはまっている、という皮肉を、明るい曲に乗せて歌っていたんです。

今回の騒ぎのなかでも、「昔からラルクって、大衆に媚びた戦略で売ってきたっけ?」と書いたファンがいました。

ふざけて見えることを本気でやる一面が、ラルクには前からあるんですよね。


わざとでも残る虚しさ

もちろん、あのジャケットが風刺だと決まったわけではありません。

「私は風刺とかじゃ全然ないと思うな〜 ふつうにやってんな、と思う」と、きっぱり書いている人もいます。

そして、風刺だったとしても気持ちが晴れない人がいました。

風刺として成り立つことと、一枚の絵として胸を打つかどうかは、別の話なんですよね。

絵を仕事にしている人の身になれば、その虚しさはよく分かります。

 

風刺なのか、そうではないのか。

説明がひとつも無いままこの絵だけが出てくれば、がっかりする人が出るのは当たり前だと感じてしまいます。

あのピンクの怪獣が何を壊しに来たのか、10月9日からのツアーのどこかで、本人たちの言葉で聞けたらうれしいですね。