2026年10月18日に投開票された横浜市長選で初当選した弁護士の原沢あつみには、選挙のあいだずっと「胡散臭い」という声がXで相次いでいました。

なかでもいちばん広まったのが、街頭で住まいを聞かれた原沢あつみが、「声が出ないんで」とだけ返して答えなかった動画でした。

横浜を「50年暮らしたふるさと」と語ってきた本人がいまは東京に住んでいて、選挙の届け出は「無所属」なのに、自民・維新・国民民主・公明の4つの党がそろって応援している。

これでは、「なんだか胡散臭い」と感じた人が多いのも当然ですよね。

胡散臭いと言われている理由は、大きく分けると次の8つです。

  • 住所を聞かれて「声が出ない」と答えなかった
  • 東京に住みながら「多摩川格差」を訴えた
  • 「ゴミ当番が嫌で東京へ」と言われる引っ越しの話
  • 「無所属」なのに4つの党がそろって応援
  • 自民と維新の応援で消えないカジノの心配
  • 花博の汚染土に「理系なので安全」と答えた
  • 大田区長の候補選びにも名前が挙がっていた
  • 当選のお礼に「横浜に戻る」のひと言がなかった

そして当選が決まったいま、いちばん残っているのが、担いだ党の言いなりになるのでは、という心配。

原沢あつみのプロフィールと経歴

原沢あつみ
引用元:原沢あつみ 公式サイト
  • 名前=原沢あつみ(本名は原沢敦美・はらさわ あつみ)
  • 年齢=59歳
  • 出身=東京都大田区生まれ、3歳から横浜育ち
  • 学歴=桜蔭中学・高校、慶應義塾大学大学院、早稲田大学法科大学院
  • 職業=弁護士
  • 資格など=一等航空整備士、予備自衛官(予備三等陸佐=少佐にあたる階級)
  • 市長選での支援=自民党県連・日本維新の会県総支部・国民民主党県連が推薦、公明党市議団が支持

横浜では緑区、磯子区、金沢区で暮らし、1989年には「ミス横浜」に選ばれたこともあります。

大学時代に初めて飛行機に乗ったのをきっかけに整備士を目指し、日本航空で12年ほど整備の仕事をしてから、40代で弁護士になったかなり異色の経歴の持ち主。

  • 1992年 慶應義塾大学大学院を修了し、日本航空の整備部門へ
  • 2004年 日本航空での勤務を終える
  • 2007年 早稲田大学法科大学院を修了
  • 2009年 弁護士登録(弁護士になる前の研修=司法修習の地は横浜)
  • 2017年 東京都の入札監視委員会の委員に(2025年まで)
  • 2018年 予備自衛官に
  • 2021年ごろ 両親を亡くし、東京へ転居(本人の説明)
  • 2026年9月10日 横浜市長選への立候補を表明
  • 2026年10月4日 告示日に立候補を届け出
  • 2026年10月18日 横浜市長選で初当選

公式サイトでは、一等航空整備士の資格を持つ女性として日本で2人目だと紹介されていて、東横インやリコーリースなどの社外取締役も務めてきました。

企業の法令順守、いわゆるコンプライアンスを専門にしてきた弁護士で、選挙に出るのは今回が初めてです。

今回の市長選は、山中竹春前市長が職員へのパワハラ問題で辞職したことによる出直しの選挙(辞めた本人もふたたび立候補できる)で、原沢あつみを含めて7人が立候補しました。

  • 藤川祥子(51)=市民団体代表
  • 山中竹春(54)=前市長・辞職したあと、ふたたび立候補
  • 中谷一馬(43)=前衆院議員・立憲民主党県連が支援
  • 原沢あつみ(59)=弁護士・自民・維新・国民民主・公明が支援
  • 福山敦士(37)=会社社長・参政党が推薦
  • 山本理顕(81)=建築家
  • 浅賀由香(46)=共産党県委員会副委員長(共産党公認)

住所を聞かれて「声が出ない」

2026年10月10日の夜に投稿された動画では、撮影していた人に「今どこに住んでいらっしゃるんですか」と2度たずねられた原沢あつみが、「そもそも声が出ないんで」と返しました。

直後に「全然しゃべってますけど」と言い返されるところまで、映っています。

企業のコンプライアンスを見てきた弁護士が、ひと言で済む質問をはぐらかしたのですから、「都合が悪くなると黙る人なのでは」と思われても仕方がありません。

東京に住んでいること自体は、本人がひと言答えれば済んだ話。

だからこそ、答えなかったことが疑いを大きくしてしまったのです。

本人の説明は「両親の愛犬と東京へ」

この動画が一気に広まった10月12日の夜、原沢あつみは自分のXで、住まいについて説明しました。

この説明の動画の中では、仕事が忙しくて金沢区の家から東京の職場へ通っていたため、引き取った犬が朝7時から夜10時までひとりぼっちになってしまい、職場の近くへ移ったと話しています。

そのうえで「市長に当選することができましたら、必ず横浜市内に戻ってきます」と約束しました。

それでも返ってきたのは、「落選した場合には横浜市に戻ることはなさそう」という声。

先に答えをはぐらかして、あとから事情を話す順番では、どんな事情でも言い訳に聞こえてしまうものです。

東京から語った「多摩川格差」

同じ10月12日、原沢あつみは横浜駅前の演説で、横浜の人が東京の会社に通って働き、東京の会社が潤って法人税も東京に入る、と訴えました。

これでは多摩川を挟んだ東京と神奈川の差、いわゆる「多摩川格差」が埋まらない、という主張です。

ところが、横浜から東京へ人とお金が流れていくと嘆く本人が、5年前に横浜を離れて東京へ移った人でした。

演説で打ち出した手は、東京より土地代の安い横浜へ企業を呼び込み、東京の人に横浜へ来てもらう、というもの。

 

ただ、「多摩川格差」と聞いて横浜の子育て世帯が思い浮かべるのは、会社の税金の話ではないはずです。

2025年11月には、都内から横浜へ越した母親の保育料が0円から12万円になったという投稿が話題になり、川1本で子育ての支援が大きく変わることが、「多摩川格差」という言葉で取り上げられました。

そこへ東京に住む候補が「会社の税金」の話として同じ言葉を使ったので、横浜で暮らす人の側の格差が見えていないと受け取られても仕方がないでしょう。

「ゴミ当番が嫌で東京へ」と言われる話

住まいの話でもうひとつ広く出回っているのが、ゴミ当番が嫌で横浜から東京へ移った、という話です。

町内会のゴミ当番すら嫌がる人に、町をまとめる市長が務まるのか、という怒りは、もっともだと思います。

この投稿についている動画(いつどこで撮られたものかは、投稿には書かれていません)では、原沢あつみ自身が引っ越しの経緯をこう話していました。

住んでいた一戸建てのまわりで高齢化が進み、町内会のゴミ当番や班長が、高齢の世帯を飛ばして若い世帯に回ってくるようになった。

東京まで1時間半かけて通いながら、それでも横浜が好きで住み続けていたけれど、両親を亡くして犬を引き取ってからは無理だと考え、気に入っていた家を泣く泣く手放した、という流れ。

 

12日の説明には犬の話しか出てきませんでしたが、ゴミ当番や班長の負担も、横浜を離れた理由のひとつとして本人が挙げていたわけです。

「私も横浜住み都内通勤ですが、町内会のゴミ当番はフツーにやっていますよ」という声もあります。

同じ負担を背負いながら今も横浜で暮らしている人から見れば、「自分は抜け出せたけれど、私たちは抜け出せない」という話に聞こえて当然でしょう。

「無所属詐欺」と言われる4党の応援

届け出は無所属でも、10月4日の出陣式(選挙戦初日の決起集会)には支援する4党の国会議員や地方議員、経済団体の幹部がずらりと顔をそろえ、10月9日には維新代表の吉村洋文も桜木町駅前へ応援に来ました。

自民党が自分たちで新人を探して市長選に立てるのは、1990年に初当選した高秀秀信元市長以来だと、自民党の県連は話しています。

じつに36年ぶりの、自民が主導した候補。

今回の7人も届け出の上では多くが無所属で、中谷一馬や福山敦士にも党の応援はついていますが、4つの党がそろって推している候補は原沢あつみだけ。

「無所属詐欺」とまで言われるのは、どの党にも属さないはずの「無所属」と、4つの党が並ぶ応援の厚みが、あまりにかけ離れて見えるからでしょう。

 

そして横浜の人は、同じような選挙を1年前にも見ています。

2021年に初当選し、2025年8月の市長選で再選した山中竹春も、届け出は無所属。

2021年には自民党の推す候補と争った山中竹春を、4年後の2025年の市長選では自民党が支持していました(東京新聞)。

立憲民主党の県連も、過去2回の市長選で山中竹春を支えています。

 

その市長が、職員へのパワハラ問題で再選から1年で辞め、前回支持していた自民党が、今度は自分たちで原沢あつみを立てたわけです。

その記憶がまだ新しいうちに、党がそろって支える「無所属」の候補がもう一度出てきたのですから、「無所属」という言葉を素直に受け取れないのも無理はないでしょう。

「無所属詐欺」という言葉は、1年前のその記憶ごと、原沢あつみに向けられているのだと思います。

「カジノは白紙」で当選した前例

自民と維新が後ろにいるなら、またカジノが来るのでは、という心配も消えていません。

原沢あつみ本人は、カジノを含む統合型リゾート(IR)について、街頭で「横浜でIRを進めるつもりは一切ない」とくり返し、ネット討論会でも「5年前にカジノの話は決着がつき、それが市民の総意と理解している」と答えています。

2017年の市長選で、自民党などの支援を受けた林文子元市長は、カジノを含むIRについて「白紙」の立場で3選を果たしました。

ところが2019年8月、林文子元市長が打ち出したのは、横浜へのIR誘致。

市民の強い反発を受けて、2021年の市長選では「カジノ阻止」を掲げた山中竹春が当選し、誘致はようやく止まりました。

 

朝日新聞によれば、かつて横浜へのIR誘致を進めた地元の経済界が、今回は原沢あつみを支援しているといいます。

原沢あつみの集会では、横浜商工会議所の副会頭が、地元経済界は誘致に「一切行動を起こすことはないと誓う」と言い切ったほど。

それでも、そこへ大阪でIRを進めてきた維新の代表まで応援に来れば、「白紙」と言って当選した人が2年後に誘致へ回った記憶がよみがえるのは、横浜の人にとって当然のことです。

本人がどれだけ否定しても、後ろに並んでいる顔ぶれが、どうしても目に入ってしまうんですよね。

花博の汚染土に「理系なので安全」

10月10日夜のネット討論会で、さらに疑いを深めたのが、花博の会場に福島の汚染土を持ち込むことへの答え。

2027年3月から、横浜市の瀬谷区と旭区にまたがる米軍の旧上瀬谷通信施設の跡地で開かれる国際園芸博覧会(花博)では、福島第一原発の事故のあとの除染で出た土のうち、放射性物質の濃度が比較的低いものの一部を使う案を、政府が検討していると報じられています。

反対する人たちが「汚染土」と呼ぶこの土を、国は「復興再生土」と呼んでいますが、環境省は使い方も規模も「検討はしているが、何も決まっていない」としていて、2026年9月には市民団体の反対のネット署名が1万3000筆を超えたと、東京新聞が伝えました。

 

その討論会で、共産党の浅賀由香から「汚染土を再利用する可能性はありますか」と聞かれた原沢あつみの答えが、こちら。

「私も理系の人間なので、いろいろ理系的に考えておりまして、復興再生土の利用については基本的には安全だと思っておりますが、現在情報等を集めて、もし危険ということが確認されるのであれば、必要な対策は施していくべきだと思います」

広まった投稿では、後ろの「危険と確認されれば対策を」の部分が抜け落ちています。

それでも、引っかかりを覚える人が多いのは無理もないでしょう。

この場面で安全だと考える理由として挙げたのは、「理系の人間なので」という自分の経歴だけだったからです。

 

花博に子どもを連れて行くかもしれない親が聞きたかったのは、理系かどうかではなく、何を根拠に安全と言えるのかのほうですよね。

国でさえ「何も決まっていない」と言っている案に、市長選の候補が先に「基本的には安全」と答えた形です。

横浜で暮らす人の不安を、国に向かって代わりに言ってくれる人なのかが見えないことも、胡散臭さにつながっているのでしょう。

大田区長の候補選びに挙がった名前

「大田区長選にも出ようとして失敗」という話も、Xではくり返し書かれています。

もとをたどると、数年前の大田区長選の前、区長の候補を何人かに絞り込む段階で、原沢あつみの名前も入っていたという話です。

その候補選びで自分も候補だったと名乗る人物は、Xにこう書いています。

「区長候補の候補は、今の区長、横浜市長候補予定者、そして私の3名の戦いでした」

どの陣営の候補選びだったのかは、この投稿からは分からず、本人や陣営もこの件には触れていません。

 

生まれた大田区で区長の候補に名前が挙がり、数年後には育った横浜で市長選に出る。

横浜を「50年暮らしたふるさと」と掲げる人にこの経緯があると、「市長になれる場所ならどこでもよかったのでは」と思ってしまいますよね。

出馬のきっかけは、地元の若手経済界の有志でつくる団体からの要請だと報じられていて、自民党も9月のはじめから擁立を調整していました。

ビラを読んでも「キッカケとか、動機みたいなものが見あたらない」という声が出るのも、うなずけます。

当選のお礼になかった「横浜に戻る」

2026年10月18日の投開票で、原沢あつみは前市長の山中竹春ら6人を破って初当選しました。

投票率は45.56%で、前回の41.64%を上回ったと、時事通信が伝えています。

当選確実が報じられた夜、原沢あつみは自分のXにお礼の言葉を投稿しました。

物価高対策や防災、子育て支援、来年の花博の成功まで並んでいますが、投稿の文章のどこにも、住まいの話は出てきません。

10月12日に「市長に当選することができましたら、必ず横浜市内に戻ってきます」と約束していたのに、当選が決まった夜のお礼には、そのひと言が入っていなかったのです。

 

Xには、当選を祝いながら「でも本当に横浜市に住んでるのかな??」と書く人もいます。

選挙のあいだいちばん疑われていたのが住まいだったのですから、真っ先に聞きたかったのは「いつ横浜に戻るのか」だった人も多いはずですよね。

あの約束がいつ果たされるのかが、新しい市長を信じられるかどうかの最初の分かれ目になりそうです。

当選のあとに広がった批判や「残念」の声は、原沢あつみの当選に批判や「残念」の声が集まる理由で詳しく読めます。

当選しても消えない「傀儡」の心配

選挙のさなかの10月11日には、共同通信の電話調査をもとに、原沢あつみが優位に立ち、山中竹春と中谷一馬が追う展開だと報じられていました。

Xには「それでも当選するかもしれないんだから、やんなっちゃいますよ…」という声もあり、4つの党と経済界がそろって支える候補を前に、結局は組織票で決まってしまうのではと感じていた人も多かったはずです。

結果はその見立てどおりになり、当選のお礼の投稿には「あなたに投票していない市民の方が多い事を忘れずに」という返信もついています。

出陣式では、自民党横浜市連の会長が「万が一元のかたに戻ることがあれば、市議会を解散し、また市長選になるかもしれない。横浜市は大混乱に陥る」と訴えたと、朝日新聞が伝えています。

市長と議会がぶつかると、議会が市長の不信任を決め、市長が議会を解散して選挙のやり直しになることもある仕組みです。

前市長が返り咲けば、そうした対立からまた市長選になりかねない、という警告で、少なくとも自民党の側にとって、原沢あつみを立てた理由のひとつは前市長を戻さないことにあるのでしょう。

 

一方の原沢あつみは、出馬の前に政治や行政の経験がないことを聞かれて、「横浜市には優秀な議員や職員がいらっしゃると思うので、互恵関係になれたらいい」と話していたと報じられています。

原沢あつみを担いだのは、市議会でいちばん大きい会派(議員のグループ)を持つ自民党です。

その議会と「互恵関係」を結んだ市長に、議会にノーと言える場面はどこまで残るのか。

 

「傀儡」「言いなり」という言葉の下にあるのは、この心配だと思います。

担いだ側に向かって「それはやりません」と言えるのかが見えないうちは、胡散臭いと感じる人がいて当然です。

原沢あつみが当選してもなお胡散臭いと言われてしまうのは、東京の住まいを本人が自分の口で語る前に、はぐらかした動画が先に広まり、そこへ4つの党の応援と1年前の記憶が重なったからなんですよね。